第21回「うんと知りたいトイレの話」報告 「災害に備えて私達は何ができるのか」 (日本トイレ協会編「進化するトイレ」シリーズ第一弾「災害とトイレ」特集その2)

第21回「うんと知りたいトイレの話」報告
「災害に備えて私達は何ができるのか」
(日本トイレ協会編「進化するトイレ」シリーズ第一弾「災害とトイレ」特集その2)
●講師 新妻 普宣さん(日本トイレ協会運営委員、(株)総合サービス 代表取締役社長)
足立 寛一さん(日本トイレ協会運営委員、(株)エクセルシア 代表取締役)
一般社団法人 日本トイレ協会、連続セミナー「うんと知りたいトイレの話」(2023年2月9日)

(川内)日本トイレ協会では、トイレに関する3種類の本を「進化するトイレ」というシリーズ名で出版しているが、その第1号として発刊されたのが「災害とトイレ」という本。
これは日本トイレ協会の中の災害・仮設トイレ研究会に属する方々が主に中心となって書かれている。
前回のセミナーでは、非常時の仮設トイレはすぐに設置されるわけではない。さらに仮設トイレはまだまだ和式が多い、という話だった。今回は、私達が被災者として何をどうすればよいのかということについてお話をしていただく。

(第一部) 過去の災害からの教訓と、国・自治体の取り組み
(新妻)私は日本トイレ協会の運営委員、そしてトイレ協会の中の災害・仮設トイレ研究会の幹事をやっている。
災害では、自分で助ける自助、周りの人たちが相互に助ける共助、そして国などの公的機関が助ける公助があるが、ここでは公助について述べる。
【災害に備えて、私たちは何ができるのか】
第1に、各災害の被害想定、国の対策を正しく理解する。
俯瞰的に全体を理解して、問題点に正しく対処する必要がある。
第2に、トイレが不全となる仕組みを正しく理解する。
トイレが使えなくなるというのは、断水による場合だけではなく、下水道水が流れない場合もトイレは使えない。また最近の便器は停電になると使えなくなる。停電時には、マンションだと給水も止まる。つまり、主要なライフライン三つのどれかが止まるだけで使えなくなることへの理解が必要。
第3に、トイレは生理現象だから我慢できないが、国や自治体の支援はすぐに来るわけではない。
第4に、事前対策としてトイレの備蓄を行うことで、災害時のトイレ被害を防ぐ事が可能である。
第5に、地震に加えて風水害、感染症、そして火山噴火といった災害が複合的に起こる場合に対しても備える必要がある。
第6に、トイレも自助・共助 が大切である。
トイレは我慢できないから、行政や国の支援を待っているわけにはいかない。自分のことは自分で準備しておかないとトイレの対策にならない。

(1-1)過去の災害トイレの経験
(1-1-1)熊本地震(2016年4月16日、マグニチュード7. 3)
大きな地震が起こると、ライフラインに被害が出る。
上水道、下水道、電気、この三つがどれかが止まっているだけで、トイレは使えなくなる。
熊本市のある小学校に開設された避難所では、マンホールトイレが体育館の裏に5基設置された。そのうちの1つは車いす対応になっていた。しかし目隠し用のテントの隙間から、たくさんの虫が入ってしまった。ハエだけじゃなくてハチもいて、防虫対策が課題だった。
ある避難所のトイレには仮設トイレが設置されたが、ほとんどが和式だった。
国は、和式トイレの上に設置して腰かけて使えるようにするアタッチメントを配布して対処した。
衛生対策として、トイレを使った後で避難所に戻る際に、新聞紙に次亜塩素酸などの消毒液を浸したものの上を歩くようにして、靴の裏を消毒していた。
災害時にはトイレを我慢するために食べない、飲まないということが起こり、その結果、体調を崩してしまう。
熊本では余震が多く、夜は自分の車の中で寝る人が多かった。水分を十分に取らなかったため、エコノミークラス症候群が問題となった。
熊本では、政府が初めてプッシュ型支援を行った。プッシュ型支援とは、被災地からの要請を待つことなく支援物資を持ち込むこと。支援物資の中に携帯トイレ、簡易トイレ、トイレットペーパーが含まれており、熊本では発災後2日目か3日目にはトイレが提供され、非常に迅速な対応だった。
簡易トイレ(便袋含む)は20万回分が提供された。仮設トイレが1000台搬入された。
(1-1-2)東日本大震災(2011年3月11日、マグニチュード9.0)
東日本大震災では、上水道が230万戸で断水した。
下水道は120施設以上が稼働停止となった。
下水道管が1000 km以上にわたって被害を受け、850万戸が停電した。
文科省が被災者に避難所で問題となった施設について聞いたら、トイレを挙げた人が74. 7%で、一番多かった。
2番目は、暖房設備が70%、3番目は、給水・上水設備が66.7%だった。
トイレは我慢できないので、避難したときから困る。
ある町の避難所では建物のトイレが使えないので仮設トイレが設置されていたが、汚物タンクがいっぱいになって、汲み取りが来るまで使用禁止だった。
携帯トイレも使われていたが、使用後の携帯トイレはゴミとして処分されなければならない。ゴミの回収がないと、置き場所に困る。
災害トイレは、携帯トイレ、簡易トイレ、仮設トイレ、マンホールトイレと4種類あるが、どれにも良いところと悪いところがあるので、上手に組み合わせることが必要になる。
避難所のすぐ近くに仮設トイレを設置してしまったので、衛生環境として非常に良くない状態になる場合もある。
地盤の液状化が起こったところでは、マンホールが地面から飛び出して、下水道は流せない状態になった。
地震や津波で、下水処理場に被害が出て、下水が処理できなくなったところもあった。
(1-1-3)阪神・淡路大震災(1995年1月17日、マグニチュード7.3)
阪神・淡路大震災の時もトイレに多くの問題が起こった。
東日本大震災と阪神・淡路大震災との間に16年あるが、トイレについての状況はほとんど変わっていない。
私たちはいろいろと対策を取ろうとしているが、なかなか進化していない。
(1-1-4)豪雨時のトイレ事情(西日本豪雨 2018年6月28日)(台風19号 2019年10月12日)
2018年の西日本豪雨、そして2019年の台風19号では、水とともに泥がトイレに流入して、トイレが使えなくなった。
地震の時のように配管等が壊れてはいないが、使えない。
内閣府が、断水と、停電に関しての被害状況のグラフを公表している。
電気は復旧が早い。上下水道の復旧は遅い。
台風19号のときには、52万戸が停電になったが、1週間後には200戸ぐらいと、急速に回復した。
ところが、断水に関しては、当初は15.3万戸だったのが、10日後でも4.2万戸が断水しており、2週間ぐらいして5000件くらいに減っていった。
上下水道は道路工事もしながら地面を掘って修復していくから時間がかかる。
今まで災害として地震を想定してきたが、近年は風水害の数が増えていて、風水害でもトイレに被害が出る。
さらに、感染症や火山の噴火など、様々な災害が同時に襲う複合災害についても考えなければならない。

(1-2)国の計画概要
(1-2-1)国の災害被害想定では トイレはどうなっているか?
地震の発生率について、国の想定によれば、太平洋岸の関東から四国まで、ずっと危険度が高い。
国の予想では、南海トラフ地震が起これば、3440万人が断水し、復旧に約60日かかる。
首都直下地震が起これば、1440万人が断水。これはこの地域の人口の30%にあたり、復旧に約30日かかる。
30日間水が流せなくてもトイレは必要だから、いろいろな対策が必要になる。
次に下水道。
南海トラフ地震が起こると、下水道の被害で3210万人が水が流せなくなる。
首都直下地震の場合は150万人で、復旧に30日以上かかる。
次に電気。
給水ポンプで上の階に水が上げられなくなったり、洗浄に電気を使っていたりする機器が使えなくなる。
南海トラフ地震の場合の予想では停電が2710万軒に起こる。
首都直下地震では1220万軒、その地域の人口の50%が停電し、復旧までに約30日かかる。
これらの結果として、巨大地震の発災後4~7日目(4日間) に想定されるのは、南海トラフ地震では9700万回のトイレが不足する。首都直下地震では3200万回分のトイレが不足する。
これは国がプッシュ型支援をする4日目から7日目の4日間分で足りない分の数字。
これを1週間分に換算すると、南海トラフ地震の発災後7日間では1億7000万回分のトイレが足りない。
そして4年ぐらい前に、メーカーが集まったらどれだけ集められるのかを調査したら、680万回分で、全然足りないことがわかった。
同じように首都直下が起こった場合も推計したら、発災後の1週間で5600万回が足りない。
プッシュ型支援用の支援物資としてメーカーが集められるのは680万回分だから、4920万回分が足りない。
このことから、各家庭でのトイレ備蓄がとても重要になる。
家庭での備蓄を調べると、水は60%、非常食は47.6%が備蓄しているのに、災害時用トイレは19.5%しか備蓄していない。
(1-2-2)国・自治体のトイレ事前対策
内閣府が「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を作った。
これは、避難生活を支援する行政が取り組むべき事項の内、避難所のトイレ確保と管理に関して纏められた初のガイドライン。
災害時のトイレ確保・管理にあたり、「安全性」「衛生・快適性」「女性・子供」「高齢者・障害者」の4つの要素に対して配慮するように書いてある。
これらは、一つでも欠けると、トイレが安全でなくなり、安心して使用できなくなってしまう要素になる。
災害トイレは4種類ある。
【携帯トイレ】室内で使える携帯型のトイレ。既存の便器にかぶせて使えるものもある。
【簡易トイレ】組み立て式の便器で、簡易的に使えるトイレ。
【マンホールトイレ】耐震化したマンホールの上に設置する。国土交通省のガイドラインができている。
【仮設トイレ】今は災害時でも快適に使える仮設トイレが増えている。
この4種類は、それぞれ長所、短所があるので、国土省交通省はうまく組み合わせて使うことを提唱している。
発災直後は、機動力がある携帯トイレと簡易トイレの二つで対応する。
マンホールトイレは組み立てが必要で、1日後くらいから増えてくる。仮設トイレは3日目くらいから設置され始め、だんだんと携帯トイレや簡易トイレの使用が減っていくということになっている。
国のガイドラインによれば、トイレの平均的な使用回数は1日5回。
仮設トイレやマンホールトイレの個数は、災害発生当初は避難者50人当たり1基。
その後避難が長期化する場合は約20人あたり1基とされている。
(1-2-3)災害発生時の国のトイレ対策
2016年の熊本地震で、プッシュ型支援が初めて発動された。
従前は、災害が起きると、市町村がそれぞれ必要なものを都道府県に要請し、都道府県から国に要請していた。そして国が要請に応じたものを都道府県に供給し、都道府県から市町村に供給するというやり方だったので、結構時間がかかった。
東日本大震災のときには、市町村からの要請が、仮設トイレを供給する事業者に届くのに1週間かかった。
そこで、国があらかじめ必要なものをリストアップしておいて、現場からの要請を待たずに物資を供給するという仕組みに変えた。これをプッシュ型支援と言う。
予想されている南海トラフの大地震が起こったら、国は発災後4~7日の間に、プッシュ型で簡易トイレ9700万回分を供給することになっている。
首都直下地震の場合も同様に、国は発災後4~7日の間に、プッシュ型で簡易トイレ3200万回分を供給することになっている。
これらの計画の上に、国は国民に、最低3日分、推奨1週間分の水、食料、携帯トイレ等の生活必需品を備蓄するように要請している。

(1-3)最後に ~私たちは何ができるのか?~
1.各種災害の被害想定・国の対策を正しく理解する。
2.トイレが不全となる仕組みを正しく理解する。
3.トイレは我慢できない不可避の生理現象であることを再認識する。
4.事前対策として最低3日間、できれば7日間分の災害用トイレを備蓄する。
5.複合災害(地震×風水害×感染症×火山)にも備える。
6.公助としてのトイレは、届くまで時間がかかるので、自助・共助 が大切である。

(第二部) トイレの自助
(足立)私は日本トイレ協会の運営委員、そして災害・仮設トイレ研究会の副代表幹事と、携帯・簡易トイレグループのグループ長、ワーキンググループのリーダーをやっている。
私たちは3年ごとに災害トイレの備蓄に関するアンケート調査を行っている。
2020年には、南海トラフ地震と首都直下地震が起きたら被害が想定される10の都道府県に、100人ずつ、計1000人の方にアンケートを行った。
(2-1)災害時に備えた備蓄状況
非常時の備蓄について聞いたが、懐中電灯は72. 3%、水は60%、非常食やラジオは50%くらいが備蓄している。
しかし、災害トイレは19.5%、5軒に1軒くらいしか備蓄していない。これでも2017年からは4%増加している。
今年、2003年にも調査する予定。
(2-2)震災後にトイレが使えない期間
トイレは地震だけではなく、台風や集中豪雨による水害でも使えなくなる。
熊本地震の時には約1ヶ月使えなかったとか、東日本大震災のときには地域によっては数ヶ月使えなかったといった話を聞いている。
下水処理場が被災すると、大きな影響が出て、東日本大震災では完全復旧まで120日ぐらいかかった。
多くの下水処理場は海の近くにある。そこが津波や高潮で被災すると、山間部では水害は全くないのに、下水を流してはいけないということが起こりうる。
自治体はいろんな種類の携帯トイレ、簡易トイレを備蓄しているが、数は全く足りない。
トイレのことは、やはり自分たちでやっていかなければいけない、自助が非常に重要になってくる。
(2-3)排泄の量はすごい
1日に5回トイレに行くとすると、家族が3人だと3日間で45回トイレに行く。1週間だと105回。
下水が流せない場合は、排泄物をゴミの収集が回復するまで置いておくことになる。
家族3人で1ヶ月分の排せつ物をためたら、お風呂の浴槽1杯分くらいになる。
ゴミの収集が回復するのかどうかは、非常にむずかしい問題。
東京で起こる首都圏直下地震において、ゴミの発生量は、1年間に出る量の20倍という予測がある。
ゴミ焼却炉も被災する可能性があるから、これだけの量を片付けるには、どのくらいの期間がかかるかわからない。
マンホールトイレや仮設トイレはすぐには設置できない。
発災当初から行政の手が届くまでは、自分たちで何とかしていかなければならない。
(2-4)携帯・簡易トイレの備蓄がない場合の対処法
【水を流す!(下水が流せる場合)】
2ℓくらいの水で流すと、見た目は目の前から排泄が消えてなくなっているように見えるが実際は管の途中で止まっている。
最低でも5ℓの水で流さなければ、本管までは排出できない。
【ビニール袋+新聞紙】
ビニール袋と新聞紙で即席のトイレにすることはできるが、昨今はビニール袋が有料化されていて、家庭には昔ほどビニール袋がないし、新聞をとっていない家庭も多い。
【猫砂やペットシート】
猫や犬は人間に比べ比較的小便が少ない。人間は小便が多く、その排泄量を充分処理できるかどうかは疑問。
【大人用 おむつ】
介護を受ける方がいないと、家庭に常備はされていない。吸水という点では良いと思われるが、ごみが多く出る。断水した便器にオムツを敷いて使うことも考えられる。
これらの方法はあまり有効ではないと思われるので、簡易トイレや携帯トイレをぜひ備蓄しておいていただきたい。
(2-5)簡易トイレと携帯トイレの違い
簡易トイレというのは、ダンボール製とかプラスチック製とか金属製で、便座が付いたもの。
簡易トイレは、プラスチックやダンボール、金属製のものがコンパクトに収納できるようになっているので、まず組み立てる。
本体にビニール袋をしいて排泄をし、同梱の処理剤をふりかける。
その後、便袋を縛る。
家のトイレが使えなくなると、この簡易トイレが役に立つ。
避難所において、補完的な意味でのトイレにもなりうる。
携帯トイレは、便座がない。例えば水が流せなくなった便器にビニール袋やシートを敷いて使ったりする。
その後、処理剤をふりかけて、便袋を縛る。
処理剤は水分を凝固させるが、ちょっと凝固剤の量が足りないのではないかと思う製品もある。
水だと割とよく固まるが、尿はいろんな物質が混じっていて濃度が濃いため、水に比べて固める能力が落ちる。
さらにこの凝固剤は、いいったん固まってから保存が長期間になると液体に戻るものもある。
携帯トイレにはシート型というのもある。
これは、袋状で、そのまま便器の水のたまる部分に入れる。袋の口は大きく広げて便座を包み込むようにセットする。袋の底には処理剤がセットされていて、排泄したらすぐに便袋に入れればいい。
これは、お年寄りの方とか小さなお子さんとかがトイレをする場合にセットしておけば、排せつ後の処理剤のふりかけ作業が必要ない。
処理剤は粉末が多いが、タブレット型もある。
これも、排せつ後に処理剤をかけるのではなく、最初からビニール袋にタブレットを入れておいて、その上から排せつする。
排せつ後に処理剤をかける場合は、トイレットペーパーなどがあってうまくかからない場合があるが、処理剤が先に入っているのでそういう問題をクリアしている。
携帯トイレの中には、体を覆えるポンチョがついていて、屋外で使えるものもある。
(2-6)災害時用トイレの購入先
私たちが3年おきにやっている調査では、災害用トイレをどこで購入したかも聞いている。
比較的多いのはホームセンターやインターネット。
今年2023年の調査ではインターネット経由が非常に多くなっているのではないかと思う。
その他には、通販や生協から買ったとか、もらったというのもある。
(2-7)災害時用トイレの備蓄理由ときっかけ
災害用のトイレを備蓄している理由を聞くと、不安だからが一番多くて58.5%。
他に、テレビで見たからとか、家族知人に勧められてということもある。
災害時用トイレを備蓄するようになったきっかけを聞くと、東日本大震災以降に不安を感じ、災害時用トイレを備蓄し始めた人が53%。
東日本大震災以前から備蓄していた人が16.9%だから、東日本大震災の影響の大きさがわかる。
(2-8)まとめ
地域で災害時のトイレの対応を考えるとき、まず実態を調べることが重要だと思う。
例えば、自分の家の周りにマンホールトイレが設置される場所があるかとか、誰が防災倉庫の鍵を持っていて、誰の判断でトイレを設置するのかといった運用面がまだ決まっていないところが多い。
それぞれの地域における災害時の責任者を、きちんと決める必要がある。
災害時のトイレ担当も自治体レベルとか避難所レベルで考えていくことが必要だと思う。
災害用トイレを備蓄している方に、実際に使ってみたかを聞くと、使ったことがない人が8割以上。
説明書さえ読んだことがない人が3割。
小学校の避難所で宿泊訓練をするところもあると聞いているが、そこで災害用トイレを体験するのもいいのではないか。
イベントやお祭り、マラソン大会で、実際にマンホールトイレを設置して使ってもらっている自治体があるとも聞いている。
災害時のトイレの自助と共助について、皆さんで考えていただき、防災訓練で試されることが大事だと思う。
もう一つが使用後の携帯トイレ簡易トイレについて。
災害時になかなかごみ収集体制が回復しないと、自身の家や近所でどこにそれを置くかが問題になる。
集合住宅でも大きな問題になると思う。
夏場は特ににおいや感染症の問題が深刻になる。
トイレがどうして非常食に比べて備蓄率が低いのか。
これは、多くの人が、災害時のトイレというのは自治体が用意するものだという意識が強いからではないかと思う。
しかし、自治体が全部の家庭のトイレ回数分を準備するのは非常に難しいので、自助で準備をしておくということが非常に大事になる。
トイレ協会としては1週間分ぐらいの備蓄を推奨しているが、できれば、もっと多くのトイレの回数を備蓄していただくのがいいのかなと思う。

(第三部) 質疑
(HOさん)コンビニのトイレは災害時に役立つと思うが、オーナーの負担にならない範囲でコンビニ自身が災害時に備えて準備しておくべきことがあるか。
(新妻)上水と下水、電気がどうなるか、コンビニの場所によって違ってくると思う。
例えば東京駅の中にあるコンビニだと、建物は耐震化されて大丈夫かもしれないが、水が出ないかもしれないし、流せないかもしれない。対策として水をためておくのはもちろん良いことだと思うが、やはり携帯トイレか簡易トイレを備蓄しておくことが必要。
あるいはコンビニにマンホールトイレがあっても良いと思うし、場合によっては仮設トイレを持っていても良いのではないか。
4種類の災害用トイレでどう対策をするかというのを、それぞれのコンビニのオーナーや施設の方が考えるべきだと思う。
(足立)コンビニのバックヤードはとても小さくて、十分な備蓄はできない。
コロナ禍では、最初、どういう感染症であるかがわかなかったので、トイレを貸さないというコンビニが増えた。
これを考えると、私たちトイレ協会からコンビニに対して、こういう場合は貸していただきたい、こういう場合は貸さなくて良いといった運用面での提案を行ってもいいのかなと感じる。
(新妻)あるコンビニグループは、全店に、簡易トイレを1個ずつ持っている。
トイレの数も少ないし、バックヤードも狭いし、簡易トイレ1個ではすぐになくなってしまうと思うので、コンビニはすぐにトイレを貸せなくなると思う。
(足立)自助として、各個人が携帯トイレを1回分でもカバンに入れておけば、外出先でも使える。
(NOさん)仮設トイレのし尿収集は誰がどこに依頼するのか。
(川内)これは行政が、そのときの様子を見て、収集ができるようになったら順次やるという以外にない。
行政も余裕がない中でやっていくということになるので、依頼してもすぐには来てくれないと思われる。
(足立)水洗化が進んでいる地域ではバキュームカーの数が限られているので、仮設トイレの汲み取りが十分に行われるのは難しいかなという感じがする。
(HIさん)凝固剤の有効期限について教えてほしい。
(足立)メーカーによると思う。
私の会社の製品でいうと、薬剤を入れているビニールの袋のバリア性に限界があるので、備蓄期限を設けている。
(川内)先ほどのお話では、たとえ凝固剤で固まったとしても、時間がたつと液体に戻るということも起こるということだった。
(足立)ひどいものだと、1日ぐらいで凝固の効果が落ちてくるものがある。
(新妻)凝固剤も種類が様々だということ。
(川内)しかし、固まった状態でどれだけの期間持つというのは、カタログに書いていないと思う。
(足立)吸水している水の量と期間というのは関係があって、より多くの水であれば凝固する時間は短くなる。
(新妻)凝固剤の保持力は、製品ごとに使ってみないとわからないので、1個でもいいから買って使ってみて、性能を確かめてから大量に備蓄をするのがいいと思う。
(足立)大便には好気性と嫌気性の菌がいるので、夏場で暖かいところでは出てくる臭いとかガスが変わってくる。
メタンガスが発生して膨張率が高くなるケースもある。
(KAさん)浄化槽の場合は、災害時でも電気さえあれば使用可能か。
(新妻)下水道は便器から処理場までの長い排水管が全部健全でなければ流せなくなる可能性がある。
浄化槽は基本的にご自身のエリアの中にあるので、そこまでの比較的短い排水管と、電気が通じるかということをチェックすれば、使えるようになる。
浄化槽の業界でも今その強みがありますよということを、この数年PRしている。
(川内)日本の小型の浄化槽は非常に高性能だが、国はなぜか下水道で下流まで延々と流していく方にすごく力を入れている。小規模なものが独立しているほうが災害に強い場合もある。
(MUさん)ホテルの部屋のトイレに、水の入った20 Lのポリタンクが非常用と書かれて置いてあった。
ロビーなどのパブリックスペースのトイレにも、非常用に流す水として、それぞれ20 Lのポリタンクが置いてあった。
(足立)このトイレには何Lの水を流さなければいけない、何回分と書いてないとちょっと不親切な気がする。
(新妻)先進的な対策だとは思うが、便器の形状でも流す水の必要量が違うと思う。
(川内)ポリタンクの小さな出口から注ぐと、いっぺんに大量の水で流せないので、あまり効果がないのでは。
(足立)20 Lを女性が抱えるのは難しいので、いろんな運用面の課題があると思われる。
(新妻)水があるだけでは駄目で、排水管が全部健全で、下水処理場も使えるかどうかを各ホテルが確認してからでないと、流してはいけないということになると思う。
(MIさん)携帯トイレの汚物が回収できるようになって、パッカー車で回収する場合、ビニール袋が破裂して汚物が漏れる懸念はないか。
パッカー車に水抜き穴があいている場合、道路に汚物がまき散らされることが心配。
(足立)水抜き穴の構造についてはわからないが、これは重要なポイントの一つだと思う。
携帯トイレの回収方法について、ゴミ袋に災害トイレと書いておいてくれという自治体と、そんなことはしないで普通のゴミと混ぜてほしいという自治体と、二つにわかれている。
(新妻)環境省は、災害のゴミの中でも携帯トイレは別の管理をしようと言っている。
なので、もう少し経つと市町村でも、他のごみとは別の処理をするようになる。
じつは、この問題は各地で実際に起きている。
しっかりした凝固性能がないものが破裂して、ごみ収集職員に飛沫がかかって大問題になった市町村がある。
しっかりとした凝固性能がある携帯トイレ、簡易トイレでないと、そういう問題が起きるということになる。
(川内)災害で都市機能が一旦停止して、それからゴミ収集が始まると、ゴミ回収の初期の段階では各家庭にたまっていた携帯トイレが猛烈に出てくる。
これは収集する方にとっては衛生的に危険な状態になりうるということ。
以前にも、紙おむつが、収集車に入れて圧縮しているときに破裂して、半分乾いて粉末になった汚物が収集職員に降りかかる、あるいは、吸い込んでしまって、何かに感染する危険があると聞いたことがある。
一般ゴミの回収とは別に、携帯トイレの回収だけという形にすると、収集する人たちもそれなりの防御が可能になる。
(足立)携帯トイレには水分が多くて焼却炉の温度が下がるので、燃やす側としても、普通の紙ゴミと携帯トイレの配分を考えて焼却炉に入れたいと言っている。
でも、焼却場に災害用トイレの一時の置き場を作ると、そこからの悪臭が大変なことになって、周りの住民からかなりのクレームが来る。
役所の中で、環境部署も防災部署もそれぞれで困っているのに、相互の意思疎通は十分に行われていないようだ。
(川内)災害時のトイレ状況を知っていれば、ゴミ収集車が来たときに家にたまっている使用済みの携帯トイレを一度に全部出すか、ゴミ収集車の負担を考えながら少しずつ出すか、考えることができる。そういう意味で、非常時にトイレはどうなるかを、より多くの人に知っていただくということが非常に重要なのだと思う。
(新妻)知るということで言えば、まず自分のエリアの被害想定を知ってほしい。
上水、下水、電気といったライフラインはどれだけ止まってしまって、何日復旧にかかるか。
これについての市町村の想定が公開されている。
それを見た上でトイレ対策をすると、他の災害対策も関連して考えることができる。
トイレの対策ができれば災害対策全体が見えてくると私は思っている。
(足立)災害トイレは、ちゃんとしたものはそれなりのコストがかかるということを知ってほしい。
安いものはやっぱり何らかの理由がある。
なのに、自治体の調達価格は非常に安く、私たちの製品コストの10分の1くらいに設定されている。
いい製品ならば、臭いも比較的抑えられるし、より衛生的になる。
(川内)災害は来て欲しくないけれど、必ず来る。
そのとき、食べるのも問題だけれどもトイレはとてもシリアスな問題になるというのが今日の話でわかった。