第4回セミナー「うんと知りたいトイレの話」報告

第4回「災害とトイレ(2)」(2021年7月22日)山本耕平(日本トイレ協会 副会長)

【自己紹介】
日本トイレ協会の副会長だが、廃棄物だとか環境のコンサルタントの会社をやっている。
今から40年近く前、どこに行っても日本のトイレはひどかった。そこでトイレットピアの会を始めた。1年ぐらいのち、1985年に日本トイレ協会を作った。
私は10年間事務局長をやっていたが、全国トイレシンポジウムとか、各地の良いトイレを毎年10個選ぶグッドトイレ10(テン)をやった。
93年には神戸で国際トイレシンポジウム。おそらくトイレに関して世界で初めての国際会議だと思う。

【阪神淡路大震災】
私は大学を卒業して6年ぐらい神戸市役所に勤務していたし、妻の実家が全壊したとかで26年前の阪神大震災は非常に身近な出来事だった。
当時、神戸市は非常に水洗化が進んでいて、ほとんど水洗トイレだった。
電気に比べて水道とか下水道の復旧は遅い。神戸では下水処理施設が被災をしたのでとても長い時間、復旧にかかった。水道は約3ヶ月ぐらい断水をした。
神戸市は地震災害を想定していなかったし災害全般に対して備えが不十分だった。
このときに災害ボランティアがたくさん神戸にやってきて、その後、災害ボランティア活動が盛んになった。
避難所に大勢の人が集まった。小学校に何千人単位、万に近い人が集まったところもあって大混乱だった。
私達は全国の皆さんに呼びかけをして、トイレボランティアというのをやった。
神戸市環境局と相談して、避難所のどこにどれぐらい仮設トイレがあるか実態がわからないので汲み取りの体制が組めないため、仮設トイレや避難している人のトイレのニーズの調査を行った。
「穴を掘ってトイレにする」というようなことは都市部ではできない。穴を掘ってペール缶やバケツを埋めてもすぐいっぱいになってしまうし、それを処理するところがないので、ほとんど役に立たない。
避難所に多くの避難者が集まったのに神戸市は仮設トイレなどの準備がなかった。全国から組み立て式の災害用トイレを提供してもらったり、仮設トイレをレンタルで配置した。
だいたい避難者100人に一つぐらい行き渡ると、ようやく苦情が収まった。それまでにだいたい2週間ぐらいかかった。
その後避難者もちょっと減ってきたりして、だいたい70人に1つというのが最終的な数ということでほぼ安定してきた。
マンションのトイレでは、下水管が壊れていたことに気がつかず、上から水を流して1階の排水口から汚水が噴き上げてきたという話も聞いた。
避難所になった学校のトイレでは和式のトイレが多く、ポータブルの便器を設置したりした。下水処理施設は大きな被害があったが、下水道の本管はあまり壊れなかったので、水があれば流すことはできた。水はプールの水を使ったり、近くの川の水をくんできたところもあった。

【災害時のトイレで分かったこと】
食べたり飲んだりすれば出したくなるのは当たり前。
このときには真冬で非常に寒かったが、これが夏だったらトイレからいろいろ病気が広がったかもしれない。トイレは安全や生命を守る一番ベースであると改めてよくわかった。
それから、高齢者、障害者、女性、子ども等への配慮が非常に不十分だった。組み立て式の仮設トイレで照明をつけると外にシルエットが映ってしまうので夜はなかなか使えないとか、階段の段差が大きいのでので高齢で足腰が不自由な方は、何回も使うことは難しい。
仮設トイレは汲み取りで水を使わないと思われるかもしれないが、清掃のための水はとても重要。
仮設トイレはすぐには来ないとか、数は70人~100人には1つは必要だとか、我々が調査した結果が、その後の国なんかの災害トイレの考え方の基準にもなっている。
備蓄するんだったら清掃道具も重要だとわかった。
東日本大震災でもトイレは迅速には届かなかったが、阪神のときほどトイレにみんなが困ったというような状況は少なかったようだ。
熊本地震のときはプッシュ型の支援で、市町村が要請しなくても国が業界等に指示をして支援をする形になった。
こういう経験を通して言えるのは、まず水より食よりトイレが大事だということ。
依然として現在でも数は足りない。その深刻さとか重要性の理解が、特に行政側が不十分。
備蓄についてまだ十分に検討されていないようだ。
それから質の問題。
基本的には仮設トイレは和式が多い。それから車いす利用とか、障害のある方が使うトイレが非常に少ない。乳児とか、幼児とか女性の問題もある。
それからもう一つ、ボランティアの方のトイレの問題はあまり議論されていない。
避難所のトイレはボランティアには使わせてもらえない。非常に深刻な問題。

【法律、制度】
基本的には災害対策基本法と災害救助法で災害時の避難所の対応とかが決められている。
災害対策基本法で防災計画が定められている。国の計画が防災基本計画。
今は自宅が大丈夫なうちは在宅避難が原則。そのために水とか食料とかトイレとかを備蓄してくださいということになっている。
避難所と言ってもいろいろある。
災害対策基本法は指定避難所を設けなさいと言っている。これが一般的な避難所。
大勢の人がとにかく逃げろというような場合の避難場所を広域避難場所と呼んでいるところがあり、東京都の場合は、10ヘクタールぐらいの所が213ヶ所指定されている。ここには、多分何万人とか集まるが、トイレについての具体的な計画とか整備とかはないのが現状。
我々がイメージしている避難所はおおむね小学校が一つの施設になっていて、自宅に戻れなくなった人が数日間とか、あるいは何ヶ月間、そこで生活をする。
福祉避難所は高齢者とか障害者とか、一般的な避難所では生活が支障をきたすという方々のために、老人福祉施設とかそういうところが指定されている。
指定緊急避難所は、例えば津波が来る、すぐ逃げろというような避難場所。
これだけ避難する場所があって、それぞれに人が集まるのに、トイレの対策は不十分。
内閣府が東日本大震災の後の2016年に避難所におけるトイレの管理ガイドラインというのを作った。国際的なスフィア基準では必要なトイレの数として避難者約50人あたり1基、避難が長期化する場合には約20人あたり1基としている。
学校が避難所になるが、学校でマンホールトイレ等、断水の時でも使えるところは半分以下。備蓄トイレも避難人数に比べれば全く足りない。
2019年に全国の市町村の取り組み実態のアンケートをとった。
災害でトイレに困ったことがあるという回答は46件。
トイレに対する計画は、地域防災計画の中に定めているというのが55.7%あったが、特に定めてないっていうのが34%もあった。
仮設トイレの備蓄をしているのは64.5%ある。数が足りているかどうかはよくわからない。
レンタル業者なんかとの仮設トイレの協定は3割程度しか締結していない。
携帯トイレは7割以上のところが防災備蓄品として備蓄している。備蓄を啓発しているというような答えも結構ある。
仮設トイレの汲み取りがすごい問題で、これに関してはどこかに助けてもらうとか、広域的に対応するとか、都道府県と調整するとかそんなぼんやりしたことしか書けない。
学校とか避難所になるところで高齢者とか障害者が使えるトイレの整備は44%ぐらい。
和式便器にかぶせる洋式の簡易トイレや室内型のポータブルトイレを備蓄しているっていうのは4割ぐらいあって非常に不十分。
東京都北区の災害廃棄物処理計画では、必要な資機材の量、使い終わった携帯トイレの処理をどうするかとか、ちゃんと作ってある。こういうところも中にはある。
災害避難所トイレマニュアルを作っているところもあるが、大半は不十分。
マンホールトイレは、神戸の震災でマンホールのふたを外してその上にテントを張っていて、その話を神戸市にして学校に試験的に作ったものがきっかけ。
熊本の震災ときにはずいぶんこれが役に立って普及した。
自治体がトレーラー型のトイレを一つずつ保有して、いざというときに助け合おうということで「助け合いジャパン」というNPOがやっている。全国13 市ぐらいで保有をしている。
いろんなトイレがいろんな法律を根拠にして設置され、いろんな管理者がたくさんいるので清掃とかメンテナンスのノウハウがバラバラ。行政の中でトイレを所管するところを一元的にして、全ての公共トイレを管理することが必要じゃないかと思う。民間のトイレも含めて効率的にトイレを整備するために自治体にトイレを担当する部署が必要だと思う。

【付録】
災害のときに必要な飲み水は2.5とか3リットルと考えて備蓄するが、洗い物や掃除や洗濯の水が非常に重要で、消防庁なんかは1人1人1日10 Lが20 Lぐらいを給水の目安としているようだ。そういう水をどう確保するかを考えておく必要がある。
私は「雨水市民の会」というNPOの理事長をしていて、雨水は中空糸膜のカートリッジを使うとものすごく綺麗になる。

【質疑】
H:AIを活用したトイレ配置のシミュレーションは導入されていないのか。
山本:AIを使ったトイレ配置はちょっと考えたことがない。どこにトイレがあるかってのがわかった方がいいなっていうのはある。在宅避難で、その家のトイレが使えないので外に使いに行くケースもあるし、ボランティアがどこを使えるかっていう話もある。
H:仮設トイレの配置も、火事があるところは避けるとか、道路状況も考えて一番良いところに配置するとかそういったとこもあるかなと思う。
発災前に、行政がシミュレーションにAIを活用するということもあるかなと思う。
川内:例えばトイレを流すことはできたけれども、下流の下水管が壊れていて吹き出すとかというようなことは起きなかったか。
山本:水道は断水したけど、下水の本管に大きな被害はなかった。
神戸の場合はその先の下水処理場がやられてしまったので、湾を仕切って一時的にそこに下水を流して上澄みだけを消毒して大阪湾に流した。
マンションは上から水を流すと下で噴き上げてきたというような例があって要注意。
川内:日本では単独の合併処理槽という非常に高性能のものがある。合併浄化槽には、電気と水が必要になるが、それらの回復はわりに早い。集中処理場が回復に3ヶ月かかることを思うと、大都市の中でも、ちょっとしたビルなんかはそういう合併処理槽を持っておいた方がいいんじゃないかなとは思う。
山本:神戸では最初に汲み取りに駆けつけたのが岐阜県の環境整備組合という、汲み取り業者さんの連合組織。昔、伊勢湾台風の時に助けてもらった縁で。
そのときに岐阜から神戸に来る間に当時の厚生省と、下水処理場が壊れているからし尿処理ができないその場合は、大阪湾に捨てていいかっていうような話をして、やむを得ない場合はそうしていいというようなことまで取り付けて、神戸にやってきた。
世田谷区で公衆トイレの地下にピットを作っておいて汲み取りができるようにしようという提案を作ったが、東京都の当時の清掃局から駄目だという話に。下水道処理区域になると汲み取りトイレは作ってはいけないと法律で決まっている。今だったらマンホールトイレだが、やっぱり汲み取りトイレっていうのが一番、地震防災では良いと思う。
他の自治体では、し尿処理場は防災上残しておくべきじゃないかっていう議論はあった。
生のし尿をそのまま下水処理場には入れられないので、希釈放流といって、水で薄めて下水管に流すための拠点施設をつくっておくといった議論もしたことがある。トイレの数だけの問題じゃなくて処理の方法をどうするかっていうことについては検討が足りていない。
山本:各自治体にトイレ課を作って権限を集中するという考えについては、そういうことに関心がある首長が現れてくるかということだと思う。
一元化すれば災害時だけではなくて、日常についても、障害者に対応するトイレだとかジェンダーの問題とかにも対応ができるのではないか。
災害ボランティアのトイレの実情は、災害ボランティアセンターでちゃんと用を足していってくださいと言われ、一方で炎天下だから水をいっぱい飲んでくださいと言われて、現地で出したくなったら、近くにそういう拠点がなければ男性だったらその辺で用を足すというようなこともないわけではない。
お昼休みとかで拠点に帰るまで我慢するとかっていう、それが実態。
海外の救助隊や、自衛隊はちゃんと自前のトイレを持っている。
S:韓国の自治体にはトイレを一元的に扱う部署がある。私が行ったスウォンという街ではトイレ課があるって言われた。他のところはスウォンほど熱心ではないけれどもある部署がトイレのことを専門に担当する場合に動けるような体制はできていると言っていた。
韓国にはトイレの法律があって、各市自治体の中にトイレのことはここの人が担当するというようなことを書いてあるので、事前に段取りをされている状態で権限を持って行動できるんじゃないかなと思っている。
川内:Tさんからは、自衛隊は大型のトイレカーを地方方面本部に配置している。人口30万人以上の都市の消防には、指揮車の中に消防職員用のトイレ設備をつけるようになった。警察も機動隊専用のトイレを県警本部単位で持つようになった。国土交通省は最前線の災害支援者に、職員用のトイレを取り付けるようになった。I先生からは消防車メーカーのモリタが、そんな車両を販売しているという情報提供。
山本:車椅子の方の問題だとかあるいは行政の問題だとか、一般的なトイレで議論されている部分が災害のトイレの方に話が波及していない。災害トイレと公衆トイレで違うセクションがやっているためだと思う。
地域防災計画とか災害廃棄物処理計画の中にトイレのことも書いてあるが、一般的に公共トイレで議論されている問題意識が災害の分野にはまだ行っていないので、実際に災害が起きると洋式のトイレへの対応が進まないとかが起こる。
災害ボランティアのトイレの話もボランティアの世界の中ではとても重要で随分議論されている。異なる分野間でお互いの議論ができることが必要かなあというふうに感じている。

※第4回うんと知りたいトイレの話要約Wordデータ(読み上げソフト対応の為)