第41回「うんと知りたいトイレの話」(2024年12月19日)
男子だって汚物入れが欲しい!第4弾実際に設置したところに聞いてみよう

第41回「うんと知りたいトイレの話」(2024年12月19日) 男子だって汚物入れが欲しい!第4弾実際に設置したところに聞いてみよう

男子だって汚物入れが欲しい!
第4弾実際に設置したところに聞いてみよう

司会・登壇者

  • <登壇者1>「明石市の取り組み 誰もが気軽に出歩けるまちをめざして」 森太郎(明石市)
  • <登壇者2>「長崎市の取り組み」 馬場裕子(長崎市)、竹中晴美(みんなにやさしいトイレ会議)
  • <司会>高橋未樹子 日本トイレ協会理事/コマニー(株)研究開発本部研究開発課 課長

講演概要

(司会:高橋)
本日は第41回「うんと知りたいトイレの話」にご参加いただきありがとうございます。今回は「男子だって汚物入れが欲しい」シリーズの第4弾として、実際に男性トイレへのサニタリーボックス(汚物入れ)設置に先進的に取り組んでおられる兵庫県明石市と長崎県長崎市からお話を伺います。
まず背景として、なぜ男性トイレにもサニタリーボックスが必要なのかをご説明します。サニタリーボックスは女性トイレでは使用済み生理用品を捨てるために各個室に設置されていますが、男性に聞くと「そもそもサニタリーボックスを知らない」という人も少なくありません。しかし、男性も加齢や病気(例:膀胱がんの手術後など)が原因で、尿漏れや便失禁の課題を抱える方がいます。そうした方々は日常的に尿漏れパッドやおむつを使用しますが、女性トイレと違って男性トイレにはそれらを捨てる場所がありません。先日亡くなられたキャスターの小倉さんも、膀胱がんの手術後に尿漏れパッドを常用していると公表されていました。彼は、汚れたパッドを捨てる場所がなく、臭いを気にしながら持ち帰らなければならない不便さを発信され、この問題が社会的に注目されるようになりました。
日本トイレ協会の2022年2月の調査では、70代以上の男性の27.1%が尿漏れパッドなどを使用していると回答しています。また、排泄に課題を抱える方の約半数が、それを理由に「外出を控えた経験がある」と答えており、社会参加の大きな障壁となっています。特に、パッド使用における困りごととして「用具を捨てる場所がない」と答えた男性は64.1%にのぼり、女性(22.1%)と比較して突出して高い結果となりました。これは男性トイレにサニタリーボックスがない現状が直接的な原因と考えられます。本日は、こうした課題解決の先進事例として、設置の経緯や、設置前後の課題、現状について詳しくお聞きします。

明石市の取り組み 誰もが気軽に出歩けるまちをめざして

~サニタリーボックス設置支援事業(だれでもトイレ安心プロジェクト)~

(森)
明石市の森です。本日は、鯛や明石焼きが名物の兵庫県明石市の取り組みをご紹介します。本市では「誰一人取り残さない」を理念とする「インクルーシブのまちづくり条例」を市政の根幹に据え、施策を進めています。この条例では、当事者の参画を重視する「インクルーシブアドバイザー制度」も設けています。
サニタリーボックス設置の直接のきっかけは、2021年に庁内横断で発足した「ジェンダー平等プロジェクトチーム」での議論でした。このチームは、生理の貧困対策事業を進める際に女性管理職が少なく、意思決定が難航した反省から、多様な視点を市政に反映させるために作られました。チームの報告書の中で「性別に関わらず子育て中の親や、障害のある人などが安心して外出できるよう、施設の整備や工夫が必要」と提言され、特にトイレ環境の整備が重要だと考えました。
トイレ全体の改修は費用面からすぐには難しいため、まずはおむつ捨てやサニタリーボックスといった物品の設置から検討を開始しました。計画段階では、子育て中の親やLGBTQ+当事者、障害のある方などから幅広く意見を聞きました。特に障害のある方からは「想定外の物があると危険」といった声もあり、良かれと思って設置したものが逆に不便を生む可能性も学びました。また、2022年9月の市議会である議員から設置を推進すべきとの質問があったことも、事業化への大きな後押しとなりました。
事業の目的は「まちなかのジェンダー平等推進」と「誰もが気軽に安心して外出できる環境整備」の二つです。ただ設置するだけでなく、多くの市民、特にサニタリーボックスを必要としない方々に「何のための箱なのか」を知ってもらうことが重要だと考えました。そこで、市のPRキャラクター「パパたこ」をデザインした丸い啓発ステッカーを作成しました。ステッカーには「尿漏れパッドや大人用おむつなどを使用している方のために設置しています」「タバコなどその他のゴミは捨てないでください」といった具体的なメッセージを記載し、目的の周知とゴミの誤投棄防止を図りました。
まず2022年8月から市役所や図書館といった公共施設33ヶ所に設置を開始しました。市役所では、設置した個室のドアに「サニタリーボックスあります」という目印のステッカーを貼る工夫もしています。その後、市内の大型店舗にニーズ調査を行い、2023年1月からボックスの給付事業をスタートさせました。大型店舗では、いたずらや衛生面での大きな問題が見られなかったため、翌年度から小規模店舗への支援も開始しました。

利用者の方からは「自身もパッドを使っているし、周りにも多い。ステッカーで趣旨がわかり、とても良い取り組みだと思う」「目立たないけれども大事な取り組みなので応援している」といった、私たちが期待していた通りの温かい声をいただいています。設置した施設側からは「利用頻度は少ないが、確かな利用はある」「一般ゴミが入ることもあるが、管理面で特に困ってはいない」とのことで、事業中止につながるような大きなトラブルは発生していません。今後は、利用状況についてさらに詳しく聞き取りを行い、より多くの民間施設に展開できるよう周知啓発に努めていきたいと考えています。

長崎市の取り組み

(高橋)
続いて長崎市さんの事例をインタビュー形式で聞いていきたいと思います。
長崎市では、2023年1月に開庁した新庁舎でサニタリーボックスを設置されたとのことですが、設置状況はいかがでしょうか。

(馬場)
はい、新庁舎の全ての男性用トイレの個室にサニタリーボックスを設置しました。市民の方が利用するトイレも、職員が利用するトイレも、全ての個室が対象です。

(高橋)
全個室というのは先進的ですね。設置のきっかけは何だったのでしょうか。

(竹中)
ある時、市議会で「男性トイレにも汚物入れが必要ではないか」という意見が出ました。その議員に理由を尋ねると「支持者に言われたから聞いてみようと思った、という軽い話だった」そうですが、その話が私たち「みんなにやさしいトイレ会議」の仲間に伝わり、市役所内で情報が共有されたのが一つのきっかけです。ちょうど新庁舎の計画が進んでいたタイミングの良さや、私たちが14年間、市と一緒にトイレ改善を提案してきた信頼関係があったこと、そしてトイレ協会の寅太郎さんが全国的にこの問題を発信されていたこともあり、非常にスムーズに設置が決まりました。

(高橋)
設置したサニタリーボックスについて、何かこだわった点はありますか。

(馬場)
市役所職員や障害者団体の方々から意見を聞く中で、「手で蓋を触りたくない」という声が多かったため、ペダル式は必須としました。また、自己導尿のカテーテルやおむつを捨てる方もいると伺っていたので、様々なものに対応できるよう、全ての個室に大きめのサイズを同じように設置しています。

(高橋)
設置にあたり、反対意見などはありましたか。

(馬場)
いいえ、反対意見は全くありませんでした。トイレ会議の皆さんとの意見交換の中で私自身も必要性を学び、維持管理を行う部署に相談した際も、誰も反対することなくスムーズに導入できました。実際に、市民の方が利用するフロアでは、大人用のおむつが捨てられていることもあり、適切に利用されていると感じています。

質疑

(高橋)
当事者として活動されている浅井さんにもお話を伺います。ご自身の経験や、調査された状況について教えてください。

(Aさん)
私は前立腺がんの手術後、尿漏れに悩まされパッドを使用しています。手術後、病院からは、汚れたパッドを入れるためのビニール袋と、それを持ち帰るための小さなバッグを常に携帯するよう指導されました。昨年、愛知県内の全市役所のトイレを調査したところ、38市のうち23市、約6割の庁舎にサニタリーボックスが設置されていました。しかし、名古屋市役所や愛知県庁といった中心的な自治体に設置がなかったのは残念でした。豊田市役所の多目的トイレには「紙おむつはお持ち帰りください」という表示があり、当事者として非常に冷たいと感じました。一番ありがたいのは、市役所よりも、ショッピングセンターや駅など、日常的に長時間滞在する場所に設置が広がることです。

(高橋)
NEXCO中日本の山本さんにもお話を伺います。高速道路のサービスエリアなどでの設置状況や課題はいかがでしょうか。

(Yさん)
会社として一斉整備には至っていませんが、各事務所の判断で導入を進めています。しかし、大きな課題は、清掃を担当する方々などが「どんなものが、どのように捨てられるのか」という〝見えないものへの怖さ〟を抱いている点です。女性はある程度、サニタリーボックス利用の基本ルールを教育されていますが、男性は捨て方を知らないため、不衛生な状態になるのではないか、注射器などの危険物が捨てられるのではないか、という不安が導入の障壁になっています。こうした不安を払拭するため、先行事例での課題やその解決策といった「安心材料」となるエビデンスを共有していくことが重要だと考えています。

(高橋)
この「見えない怖さ」について、明石市さんはいかがですか。

(森)
見えない怖さは確かにあると思います。明石市の場合は、まずモデル的に短期間設置し、その結果を踏まえて継続を判断するという段階的な進め方や、何か問題が起きた際は行政が責任を持つという姿勢で、施設側の不安に寄り添うことを心がけました。

(Tさん)
利用者に存在を知らせることも重要です。あるイオンさんでは、設置後に場内放送で案内を始めたところ、利用が増えたという事例があります。

(Aさん)
私の調査では、サニタリーボックスには異物が捨てられることはほとんどなく、むしろ洗面所のゴミ箱の方がペットボトルなど様々なものが入っていました。掲示があることで「ゴミ箱ではない」と認識されるようです。サニタリーボックスが設置されているのを見ると、「ここは人に対して優しい場所だな」と感じ、幸せな気持ちになります。

(高橋)
ありがとうございました。見えない不安を一つ一つ解消しながら、誰もが安心して外出できる環境づくりのため、トイレ協会としても引き続きこの活動を推奨していきたいと思います。