第2回セミナー「うんと知りたいトイレの話」報告

第2回 「日本のトイレ ― ②研究編」(2021年5月20日開催)講師:高橋志保彦氏

(一社)日本トイレ協会(以下、トイレ協会)にはさまざま分野の専門家が集まっており、その知識、情報、知見を広くお伝えする場として、月に1回の連続セミナー「うんと知りたいトイレの話」を開催しています。 第2回目は第1回目に続き、トイレ協会名誉会長であり、高名な建築家、都市デザイナーであり、また神奈川大学名誉教授でもある高橋志保彦氏にご登場いただきました。

【トイレの歴史】
古代の遺跡のトイレ跡からわかる当時の暮らし、排泄を教えに用いた宗教や、糞尿さえも武器にしたという戦乱の記録、江戸時代のトイレを共用としていた庶民の暮らし、武家のトイレなど、大量の資料をもとにした平易な語り口から、激動の文明開化に入り、近代的な下水道の整備から現代のトイレに進んでいきました。現代の便器はしゃがみ式と腰掛式に大別されていますが、便座のない「中腰式」というのもあるというのは興味深い情報でした。

【都市とトイレ】
次に都市のあり方とトイレの関係について高橋氏は第一に「バリアの無い街」を掲げ、その実現のためにユニヴァーサルデザインと、物理的バリアと心理的バリアの排除を挙げました。公衆トイレ、大型商業施設、コンビニ、ホテル等をきちんと整備して「トイレがあそこに必ずあるという安心感」を作ること、そのために安全、清潔、心地よさを備えた「みんなのトイレ」を社会に展開するという提案がなされました。「みんなのトイレ」とは「公共トイレ」「公開トイレ」に加えて「公仕トイレ」(コンビニ等のように頼めば使わせてもらえる)を指し、メンテナンスも含めて「みんなに適応するデザイン(adapted design)」による「インクルーシヴ社会」の構築への提案です。 さらにこれらを人が快適に歩ける距離をもとに配置し、歩行空間を整備するという提案は、都市計画家としての高橋氏の本領とも言える部分で、これからの社会を考えるうえでトイレは大きな役割を持っているという指摘です。

【災害とトイレ】
トイレ協会には、2015年に「災害トイレ特別研究会」として発足し2019年からの「災害・仮設トイレ研究会」に引き継がれている、災害とトイレに関する活動があります。携帯・簡易トイレ・仮設トイレの備蓄がなければ災害時には深刻なトイレ不足が起こることは分かっているのに、備蓄率はなかなか向上しないとのことで、3日分を備蓄している人は6.4%しかいないという調査結果は衝撃的とも言えます。

【トイレの基本】
トイレの基本は安全(Safety)、清潔(Clean)、尊厳(Dignity)、博愛(Philanthropy)、感謝(Gratitude)であり、それが誰にとっても「安心」(inclusive/平等、取り残さない人権尊重社会)な社会を生み出すとまとめた後、千利休の「侘数寄常住に候、茶の湯肝要に候」という言葉を引いて、「安清常住に候、トイレ思考肝要に候」というトイレ道とも言えるメッセージが示されました。 【目標】 最後に、高橋氏の、そしてトイレ協会としての目標である「国際トイレネットワーク(International Toilet Network)の構築によって、互いの文化を尊重し、刷新を推進し、情報交換してSDGsを図り、地球環境問題に資すという大きな目標が掲げられました。