第10回セミナー「うんと知りたいトイレの話」報告

「うんと知りたいトイレの話」第10回(2022年2月24日)

「男子だって汚物入れが欲しい!」~ジェンダーフリーなサニタリーボックスを!~

山本耕平 (一社)日本トイレ協会副会長、㈱ダイナックス都市環境研究所代表取締役会長

寅太郎(砂岡豊彦) (一社)日本トイレ協会事務局長、元レンタルのニッケン取締役常務執行役員

 

(1)問題提起

山本(耕):男子トイレにも汚物入れが欲しい。汚物入れという名前も含めて、みんなで考えていきたい。高齢化で、軽度の失禁を経験する人が増えてきた。

寅:私は先天性変形股関節症で、30歳頃から痛み止めを飲まないと生活ができなくなって、40代後半から飲み薬に加えて結構大きな座薬を1日3回入れないと普通に生活できなくなって夜も眠れなくなった。座薬でスーツのお尻にシミが広がって、当時は尿漏れパッドとかなかったので、女性の生理用ナプキンを55歳まで約5年間、毎日当てていた。

汗をかくので、生理用ナプキンは1日何回か取り替えないといけない。夏は1日3、4回交換していた。しかし男性用トイレには捨て場がない。

特に、出張のときは一日中交換できないときもあった。でも、男性トイレにサニタリーボックスが必要だと誰にも言えなかった。いま話をされた山本さんも、病気をされたときに尿漏れパッドが必要だったと聞いて、身近にも居たんだとわかった。

山本(耕):60代では男性の6割が前立腺肥大になる。70代で80%、80代では90%の方がなる。前立腺肥大症の最も顕著な症状が排尿障害で、年を取るとみんなおしっこが出にくくなる。残尿感があるとか、トイレの回数が増えるとか。

そのため、ズボンの前にちょっとシミができたり、実は非常に深刻。

私の場合は、脊柱管狭窄症で、神経圧迫のために排尿障害が起きるということも結構多い。

膀胱がんは男性の方が圧倒的に女性より多いらしいが、これも排尿障害が起こる。

ということで、排尿障害は男性全体にとってとても重要な問題。

そこで、アンケートをとってみた。その結果をこれから報告してもらう。

 

(2)アンケート結果

(2-1)選択回答の分析

高橋:コマニーの高橋です。まずは実態把握をしようということで、2022年2月1日から2月22日の間で、インターネットで調査を行った。

回答は557人で、海外の方からの回答もあった。性別は、男性が60.1%で336名、女性が35.6%で200名、どちらでもない、答えたくないという方が21名。

若い方からの回答数は少なくて、40代以上の回答が多い。

排泄に関して、尿漏れパッド、オムツ、清浄綿、カテーテルというような補助物を使用しているのか訊くと、女性は16%、男性の12%の方が何らかの補助物を使用していると答えた。

補助物を使っている方の年代は、若い方は少なくて、年齢が上がるほど増える傾向があって、70代以上の人は24.1%の方が使っている。

何を使っているのかを訊くと、一番多かったのは、男女ともに尿漏れパッドで、男性は52.5%、女性は75%の人が、使っていると答えた。

続いて男性で多かったのはオムツで42.5%だったが、女性でオムツを使っているのは3.1%と非常に少なくて、男女で大きな差が見られた。

尿漏れパッドを使っているのは女性の方が多かったので、女性はオムツを敬遠して、尿漏れパッドを使っているんじゃないかと考えられる。また、生理用品を使い慣れているので、その延長で尿漏れパッドを使っている方もいるのではないか。

男性はもしかしたら尿漏れパッドの存在を知らなくて、あるいはどこで売っているのか迷うという話もあるので、オムツが多いのかなと思う。

なお、これは複数回答で聞いているので、一つのものだけではなくて複数のものを組み合わせて使っているという方もいた。

サニタリーボックスがなくて困った経験を訊いた。女性トイレにはだいたい設置してあるので、男性の回答を紹介する。するとやっぱり、補助物を使っている男性の7割ぐらいが、捨てる場所がなくて困ったことがあると答えた。

サニタリーボックスがなかった場合にどう処理したかを訊くと、家に持って帰ったという人が62.5%で一番多かったが、トイレに備え付けの大きなゴミ箱に入れた、施設内の他のゴミ箱に入れた、個室の中にそのまま放置してしまったといった回答があった。

(2-2)自由回答の分析

山本(浩):NEXCO中日本の山本浩司です。アンケートの自由回答の分析を行い、どういった属性の人たちがどういったニーズを訴えているのかというのを対応分析で整理した。

アンケートの回答は500名以上からあった。その中で、補助物を使っている当事者と介助者に絞ると、自由意見や回答意見を書いた人は23人、男性14人、女性9人だった。

若い人はあまりいなくて、年を重ねた方からの答えが多い。

尿漏れパッドを使っている人が多いが、合せてオムツを使っているという方も一定数いる。またオストメイトのパウチ等もゴミとして出てくる。

処分については、複数回答された方が非常に多かった。主に持ち帰っているという方が多くて、サニタリーボックス、トイレのブースの中や多機能トイレの中やトイレ全体の空間の中のゴミ箱、商業施設とかでトイレ外にゴミ箱があればそこに捨てていると、いろいろ。

非常に少ない回答だったが、便器の陰に隠したという人とか、トイレに流してしまったという人もいた。

(対応分析)

バリアフリートイレにサニタリーボックスの整備が必要だという人が22名と、非常に多かった。複数回答された方は、それぞれ回答ごとに分けて計上しているので、それぞれの回答を合計すると,回答した人数よりは多くなっている。

男子トイレにはサニタリーボックスは不要だという意見もあった。

バリアフリートイレが絶対的に少ないとか、オムツ交換ができるようなスペースのトイレが欲しい、オストメイト対応のトイレが少ないという意見もあった。

男性トイレでは最近、小便のときも大便器を使う人が増えてきており、また,目的外利用等により個室の利用時間が非常に長くなっているため、もう少し個室トイレを増やしてくれないかという意見があった。

対応分析は、外部変数を利用者属性、補助物、処理として行った。

対応分析の結果からは、特に補助物を使っている当事者の方々たちや介助者が、男性トイレにサニタリーボックスの整備を求めているのがよくわかった。

また、バリアフリートイレの数を増やしてほしい、そしてその中にサニタリーボックスの整備が必要だという声もある。

自由意見を個別に確認すると、尿漏れパッドはサニタリーボックスでも何とか捨てられるが、便もれパッドとかオムツになると容器が大きくないと入らないという意見があったのと、一般のトイレブースは狭くて補助物の交換が難しいし、オムツ用のゴミ箱を設置するのも難しい。また、女性で補助物を使っている方からも、サニタリーボックスでは捨てきれないという声がある。

補助物を使っている当事者は主にバリアフリートイレとかオストメイト対応トイレを使っているが、そこは広いので、まずはバリアフリートイレとかオストメイト対応トイレにゴミ箱を置くということが考えられる。またバリアフリートイレの数を増やすとか、そういったことも議論が必要なのではないか。

ただ、これは一般トイレにゴミ箱やサニタリーボックスがいらないということではない。

(今後の検討課題)

高齢者人口は今後も増えていくので補助物を使う人も多くなっていく。

ゴミとして捨てられる補助物は、施設によって違うのではないか。例えば高速道路では、長時間の運転では尿漏れパッドでは足りなくてオムツを使っている人が多いかもしれない。逆にデパートとか、おしゃれな所に行くには目立たない尿漏れパッドなのかなと想像はいろいろできる。ただ、まだ事実は確認できていない。

尿漏れパッドぐらいだと持ち帰ることができるかもしれないが、オムツだと大きくて難しいだろうから、どういったものをどういった施設で使っているからその施設ではどのくらいの大きさのごみ箱が必要かを考えた方がいいと思う。

男性トイレ、女性トイレの全部に整備が必要なのか、一部に整備するのかということも考えた方がいいと思う。

先進的な取り組みを行っているさいたま市に聞くと、サニタリーボックスは小さくてオムツは入らないし、尿漏れパッドも一つでいっぱいになる場合もあるという。どういった補助具が捨てられるかによってサニタリーボックスの大きさを考える必要がある。

ただ、あんまり大きいと弁当容器とかペットボトルが捨てられるかもしれないし、盗撮目的でカメラを入れていく人もいるかもしれないので、そういった目的外使用に対処する方策を考えていかなければいけない。

さらに、サニタリーボックス等を増やしていくと現場の清掃員の負荷が増えるという問題もある。清掃しやすいボックスを考えていかなければならない。

さいたま市が最近、公共施設の男性トイレにサニタリーボックスや汚物入れを入れていくと記者発表した。現在整備しているところはまだ3箇所だが、これから順次整備していくという。一例としてさいたま市内の図書館を示す。使い捨てカイロとかオムツを便器に捨てていく特定の人がいるようで、男性トイレが5ブースある中で、今まで詰まったことのある2か所にサニタリーボックスを整備している。困りごととしては、サニタリーボックスは大きくないので、オムツだとすぐいっぱいになってしまう。女性トイレや多機能トイレには汚物入れを置いているという。今のところ、実際の利用頻度は非常に少ないので、清掃の負担は大きくない。

中日本高速では、一般トイレでは女性トイレだけにサニタリーボックスを置いており、多機能トイレ、ファミリートイレ、オストメイト用ブースにはゴミ箱を設置している。大きなブースであれば設置できるが、小さなところは難しい。

 

(3)市場の状況

山本(耕):尿取りパッドを作っている全国衛生材料工業連合会に問い合わせをした。男性の尿取りパッドをどう捨てるかについては、話題になったことはあるけれど、具体的にアクションを起こそうという話にはなっていないとのこと。

尿取りパッドと、軽失禁パッドと軽失禁ライナーという区別がある。

尿取りパッドは、年間40億枚ぐらい、軽失禁ライナーは28億枚ぐらいの生産量。

尿取りパッドは紙オムツの類型の中に入っていて、男性用、女性用という区別がされていないらしい。尿取りパッドは、たぶん吸水量が大きいので、重量もかなり大きい。

軽失禁パッドと軽失禁ライナーは、これは二つ合わせて一つのカテゴリーで、これも男女の区別はないようす。

最近の傾向としては、少しずつ生産量が増えているということだが、男女でどちらが増えているかというのはわからないとのこと。

女性の場合は生理用品と同じ、割と手に取りやすいところで売られているが、男性用のものは、介護用品、紙オムツの棚に置いてあることが多い。潜在的な需要はかなりある気がするが、店頭で気軽に手に取って買えるというような状況にはなかなかなっていない。

 

(4)メンテナンス研究会の報告

川内:日本トイレ協会には、メンテナンス研究会という実に活発な研究会があるが、つい先日、この男子トイレの汚物入れのことについての話があったので、その報告を聞きたい。

白倉:生理用ナプキンは普通の日用と多い日用と夜用があり、ほかにおりものシートやタンポンもある。

夜用ナプキンは結構大きいのがあって、これを包むと、肉まんくらいの大きさになる。

ゴミ箱もいろいろある。隅にある三角コーナータイプ、床置きタイプ、足ふみタイプ、壁掛けタイプ、壁埋め込みタイプ、箱ごと捨てられるタイプ、進化版としてはセンサー型。センサー部分に手をかざすと蓋が開いて、中に入れると閉まる。ごみ箱の中身が見えないし防臭になっている。オムツを入れると、腸詰ウインナー状にパックされるのもある。

乳児用のオムツはソフトボールくらいの大きさだが、大人用のオムツだとバレーボールぐらいの大きさになる。

都内の公共交通機関の清掃者からは、個室へのゴミ箱の要望はまだないが、普通ゴミに汚物が捨てられたことがあるというコメントがあった。

障害者の関係の方から、福祉関連のイベントではオムツでゴミがあふれているとの指摘があった。

オムツ用のゴミ箱メーカーからは、ゴミ回収と処分の費用をだれが負担するかが課題になるのではないかとの指摘があった。

清掃経験者からは余計なゴミを入れられることが面倒という声があった。

 

(5)質疑

Hiさん(コメント): 3年ぐらい前に紙オムツ等を作っている企業に問い合わせをしたことがあるが、ファスナー付きのプラスチック・バッグに入れて持ち帰る方が多いということだった。

Hoさん(コメント):スウェーデンは男女共用が多いが、夏はにおうみたい。日本の場合でもサニタリーボックスやオムツ用ゴミ箱に防臭対策が必要かもしれない。

Aさん(質問):日本で女性の個室にサニタリーボックスが置かれるようになったのはいつからか。女性の使用済み生理用品をどうするかという問題から、イギリスでサニタリーボックスを置くようになったらしい。今後、ジェンダーフリーのサニタリーボックスという流れを日本から作っていけるのかなということも思う。

寅(答え):汲み取りの頃は便槽に捨てていたと思う。水洗トイレの普及とともに、サニタリーボックスが置かれるようになったと思う。

川内(コメント):今日の議論からは、大人用の汚物入れを設置する場合には今のサイズでは合わないのではないかということ、それから、そのサイズを入れようとするとトイレの個室そのものの大きさが、ちょっと狭いのではないかという話が出てきた。

最近は機械式も含めて様々な汚物入れが出てきている。多機能トイレの中に3つぐらい汚物入れがあるというのが、特にデパートのトイレなんかでは結構珍しくなくなっている。そのために車いす使用者は非常に動きにくくて使いにくくなっているということもある。

Mさん(コメント):現在、子供用のオムツでさえ、トイレで捨てられるところは少ないように感じる。少子高齢化で大人用のオムツや尿パッドを捨てられるようにするのは管理的な問題が大きいように思った。

寅(コメント):流れないものが流されて詰まってしまい、便器を外して中の物を取り出すような大変な作業をしたトイレ管理者は置きたがるだろう。

Mさん(コメント):子供用オムツへの対策さえ不十分なのに、これから高齢者が多くなっていくと、膨大な処理をどうするのだろうか。大人の男性用の汚物や子供のオムツなど、捨てるということに関して抜本的にシステムを考えなきゃいけないんじゃないかなと思う。

川内(コメント):ただただ汚物入れを増やせばいいという話ではなくて、汚れた物を捨てるのか捨てないのか、捨てるとしたらどういうルールで捨てるのかということも考えなくてはいけないかなと思う。

Hoさん(コメント):汚物入れが多種多様なので、ルールに沿って色分けするとかしないと、てんでバラバラだとあまり意味を持たないかなという気がする。

Kaさん(コメント):汲み取りの時代、排泄物を未処理で海洋放流していた時代には、脱脂綿などの異物が流れ着いたと聞くので、古い時代から便槽内に投棄されていたのではないかと思う。

川内(コメント):ただ、今のように分解しないものではなくて、天然素材のものが捨てられていたのかなと思う。

山本(耕)(コメント):ナプキンの歴史とかについては、日本衛生材料工業連合会のホームページに詳しく出ている。高分子吸収剤が紙オムツに使われるようになったのは1970年代後半ころから。それまでは脱脂綿とか、紙パルプとか分解性のものだった。

川内(コメント):汚物入れという名称に抵抗があるという意見もあるし、ごみ箱の形状とかサイズとかの問題や、捨てるルールの問題もある。そしてもう一つは、分解しないようなものをどんどん使っては捨てるというのがいいのかという考え方も出てくると思う。