第7回セミナー「うんと知りたいトイレの話」報告

「うんと知りたいトイレの話」第7回
「ユニバーサルデザインに配慮したトイレの設計ポイント」
高橋未樹子(コマニー株式会社)

1.コマニーについて
コマニー株式会社は石川県にあるパーティションメーカーで会議室の壁や、病院の扉や学校の間仕切り、トイレブースなどを作っているメーカー。

2.トイレブースについて
2-1.トイレブースの変化
昔のトイレブースは床を水洗いして排水できるよう、下に隙間が6センチぐらい空いていた。今は乾式清掃なので隙間がなくなっている。
2-2.トイレブースの扉の基本
トイレブースの扉は、基本的に内開き。外に開くと通路を歩いている人に当たってしまう。
また空いているブースが一目でわかるように、扉が常に開いている。
最近では、狭いトイレのときには折戸を使うことも増えている。開き戸に比べて開閉のデッドスペースが小さくて済む。車椅子で入るとか、スーツケースのような大きな荷物を持って入るときにも折戸が使われている。これは中部国際空港がきっかけで、羽田空港も成田空港も、最近では新幹線の駅だとかでも使われている。
2-3.トイレブースの機能
①指はさみ防止機能
昔のトイレブースは、扉の吊元のところで指を挟んでしまう危険があった。2005年ころに小学校で指を切断する事故が起こった。自分が入ろうと思っていた隣のブースの吊元に指を挟んで、お友達が知らずに勢いよく閉めてしまった。今は吊元側を丸くして指を挟まないような構造に変わってきている。ディズニーランドでは、ドアの吊元の部分に丸いカバーがつけてあって小さな赤ちゃんの指でも挟まないような工夫がされていたりする。
最近ではブースの壁を天井まで上げて盗難を防ぐトイレが増えてきている。
扉の下は、足にぶつからないように60ミリぐらいの隙間をあけている。盗撮防止のために下の隙間を小さくしたものは、大学とか、外部の方も比較的入りやすい施設など施設用途に応じて選ぶ。逆に、プールなど裸足とかスリッパとかで使うところでは、あまり扉の下の隙間を小さくするのは、扉が足に当たってケガに繋がる。
②非常時外開き機能
ブースの中で人が倒れてしまったときに、内開きでも助け出せるように、非常時外開きという機能がある。これはオプション機能だが、病院や福祉施設や小学校など、万が一のことが想定される施設でよく使われている。新国立競技場にもこの機構が付いている。
③堅牢仕様
トイレブースの内部はペーパーコアで弱い。手すりや便座クリーナーとかをビス止めするときは専門の方にお願いしてほしい。強く殴ると、穴があく可能性がある。公園のトイレとか学校とかパチンコ屋とか、使い方が荒いところでは木の補強がしっかり入った、堅牢仕様というのがある。

3.トイレ設計の工夫
3-1.女性や高齢者への対応
①一般ブースのスペース
ブースで大事なのは、便器の前のスペース。バリアフリー法の建築設計標準では500ミリ以上を確保すると利用しやすいと言われている。私は女性の中でも低い方だが、便器の前方に500ミリのスペースがあれば、全く問題なく立ち上がれる。体格が大きく、お腹が出ている男性だと、700 ミリあれば、立ち上がり動作が十分行える。
女性は便器の前方を500ミリから550ミリぐらい、男性は600ミリぐらいとか、男女で変えるとよい。スポーツ施設など体格がよい方の利用には、ゆとりを持って700ミリにするといった工夫も必要。デパートのように大きな紙袋を持っている所では大きめのブースが求められる。
②戸当たり帽子掛けの高さ
扉の内側の上方に荷物をかけられるフックが付いている。男性なら1850ミリくらいでいいが、女性なら1700ミリぐらいにする。また、車いすの人やお年寄りや子供が使うこともあるので、1000ミリぐらいの高さにフックをつける配慮も必要。その場合は子供の顔に当たったり、大人の腰に当たったりするので、形状も大切。
これ、正式名称は「戸当たり帽子掛け」といい、上の長い部分は戸当たり。下のフックに荷物を掛ける。耐荷重は3から5キロぐらいで、重い荷物をかけることは想定してない。
空港とか荷物が多い場合は、ライニングのスペースを少し広めに取るとよい。カバンを持って入るようなトイレだと、250ミリぐらいとってあると安心して荷物が置ける。空港のように荷物をたくさん持っているようなところでは320ミリから330ミリくらいライニングのスペースをしっかりとっている。小便器ゾーンでも同じように荷物スペースを取ることが大事。
③手すりや杖をかけるフック
お年寄りには、杖をかけるフックがトイレの中にもあると使いやすい。場所は、手すりが付いている場合はその付近がよい。杖をフックに引っ掛けた後、すぐに手すりが持てるので。
杖を掛けるフックは、小便器や洗面台にも設置することが大事。
④トイレブースにL形手すりを付ける場合の扉の付け方。
一般的にトイレブースの扉は、吊元が入口に対して奥側についており、L形手すりは吊元と反対側の壁に付けることになるので、トイレに入ってきた人からは手すりの有無が見えない。吊り元を入り口側にすれば、外から手すりがみえるようになる。こういった工夫は、コスト的には全く変わらない。
⑤便器と床の色のコントラスト
床も壁も便器も白いと、白内障の方とか弱視の方には便器を見つけづらい。便器と壁や床との色のコントラストをつけると見つけやすくなる。小便器でも同じ。
⑥乳幼児連れ対応トイレ
子供連れと言っても、ベビーカーに乗せている場合もあるし、子供が歩くけれど疲れたらベビーカーに乗ったり、子供と手をつないだり抱っこしたりの親子もいる。ベビーカーなしで抱っこ紐の親子もいる。いろいろな状態に対応するには、オムツ交換台、立たせてオムツ交換するチェンジングボードと、赤ちゃんを座らせるベビーキープの3点を設置する。
お母さんが用を足しているときに、赤ちゃんをおむつ交換台に寝かしたままにしておくのは非常に危険。おむつ交換台のベルトは落下防止ではなく、寝返りを防ぐくらい。
立てるようになってくるとパンツ式のオムツになるが、高い位置にあるオムツ交換台に立たせるのは転落事故に繋がりかねない。チェンジングボードとベビーキープが必要。
オムツ交換台と壁との隙間は50から70ミリの間にするか、または200ミリ以上。50ミリより小さいと、オムツ交換台を倒したりたたんだりするときに大人の指を挟む危険がある。逆に、70より大きく150ミリぐらいの隙間だと、子供の頭が挟まる危険がある。
お母さんが用を足しているとき子供がドアが開けることがあるので、補助の鍵を1400から1500ミリぐらいの高い位置に付ける工夫も商業施設とかで最近よく見られる。
3-2.外国人への対応
イスラム教徒の場合は、トイレで用を足すと左手を使ってお尻を洗い流すので、温水洗浄機能は非常に喜ばれる。
イスラム教徒は1日5回、メッカの方角を向いてお祈りをする。お祈りの前に手を洗ったり、口をゆすいだり鼻や耳を洗ったりする。そのための洗い場がないと、トイレの洗面台に足を上げて洗うため洗面台がびしょびしょになったりするので、羽田空港や中部国際空港では祈祷室を設けている。最近は商業施設でも祈祷室を設けるところが増えてきている。
他にも、大学とか旅行会社とかでも設置される事例が少しずつ増えてきている。

3-3.トイレの混雑問題
トイレの便器数の計画には空気調和・衛生工学会が定めた基準がよく使われる。ただこの基準は昭和38年から40年ぐらいの使われ方をベースに作られている。トイレが綺麗になって和便器から洋便器に変わってきている中で、今でもこの基準のままでいいのかという問題がある。最近、私が計測したトイレの利用時間によると、古い汚いトイレの場合は昭和40年ぐらいとそんなに変わらなかったが、トイレが綺麗になると、30秒から1分程度長くなっている。その要因には、洋式便器になったとか、温水洗浄便座の普及というのもある。
和便器よりも、30秒ぐらい洋式便器の方が長い。
便座が冷たいときと温かいとき、更に温水洗浄機能がついたときについて男女で実験をした。女性はそんなに変わらなかったが、男性の場合は機能が増えていくと時間がちょっとずつ伸びていった。トイレの機能が良くなることで、占用時間が長くなっている。
大学の男子トイレで、ブースに入っている平均時間を時間帯ごとに示すと、お昼休みの12時の時間帯だけ他の時間帯に比べて50秒ぐらい長かった。昼食後にちょっと時間を持て余して、1人で過ごす場所がなくてトイレの中にこもっているのではないかなと思っている。
ただ単に、最近占有時間が伸びているからそれに合わせてトイレの数を決めようとなると、トイレの数がいくらあっても足りない。最近は1人スペースを増やしたりする学食も増えてきている。携帯が充電できて1人で過ごせるような場所をちゃんと設けるなどで、トイレの混雑問題を減らせるのではないか。
国交省が2016年にトイレで用足し以外にする行為を聞いた。身だしなみだとか着替えとかもあるが、携帯をいじるというのが結構多い。他にも読書、睡眠、温水洗浄便座用のコンセントで携帯を充電とか、女性では髪の毛のセットとか、そういった排せつ以外での長居が混雑の要因になっている。
この国交省の調査では、授乳や調乳という意見があった。授乳は赤ちゃんにとっては食事。これはトイレではなく、ちゃんとベビールームを設けるとか、トイレ以外での対策が必要。
混雑解消の工夫として、まずは、現在の空気調和・衛生工学会の算定基準に多少プラスアルファで増やすといいかなと思う。プラスアルファは施設の用途や規模によって違ってくる。
小便器の利用時間はそんなに変わっていないし、座り男子も増えているので、小便器を一つ減らしてでもブースを増やした方が混雑解消に繋がるかなと思う。
工夫の二つ目としては、トイレ以外も含めて考えることも大切。昼休みに1人で過ごせる場所を作るとか、商業施設であれば携帯が充電できるスポットをちょっと設けるとか、ベビールームを整備するとか。

たくさんブースが並んでいるときは、ブースの壁の色とドアの色を変えるとわかりやすくなる。さらに扉の吊元を入り口側に持ってくると空いた状況がよく見える。
コンサートであれば観客の性別が偏る場合がある。そういう時には利用の少ない性別のトイレの一部も使えるような工夫をしておく。
3-4.まとめ
トイレをどういうふうに使うのかを考えることが大切だと思う。これは設計側や機器メーカーだけじゃなくて利用者、管理者も含めて大事だと思っている。
あとは、トイレじゃないといけないことと、トイレ以外ですべきこと、マナーも含めて一人一人が考え直すことが大切かなと思う。

【質疑】
Oさん/ブースと言う言葉の表現は,一般的か?
Hさん/ブースは、小屋とかそういった意味。ボストンではブースではうまく通じなかった。トイレキャビンだと通じた。
川内/私はキュービクルとか、コンパートメントを使うことがある。
次の質問。聴覚障害者の方々に対する、ドアへの配慮はあるか。
髙橋/外開きの場合は、空いているかどうかがわかりづらい。聴覚障害者はノックでの確認ができない。光が少し漏れるような小窓をつけるというのがあるかなと思う。
川内/別件だが、聴覚障害のある人への対応として、ブースの中にフラッシュライトを点滅させて緊急事態を知らせる設備が空港とかショッピングセンターで徐々に増え始めている。
Iさん/以前のバリアフリートイレにはカーテンがつけられていたものがあったが。
川内/介助者と一緒に入っても、排泄中は介助者に外に出てもらうというようなことがある。そのときに、特に電動ドアだと、「開く」を押すとドアが全部開いてしまって中が丸見えになるので、中が見えないようにカーテンで仕切っていた。
最近では、男女共用トイレの場合に、本人と介助の方が一緒に入って、本人が排泄しているときに、外に出ないまでも見えないようにカーテンをつけるということがある。
一方で、カーテンを手拭きに使って非常に汚れてしまうとか、車椅子から便器に移るときにカーテンを掴んで、ブチブチとちぎれてしまうというようなこともあって、結構維持管理に手のかかるものになってしまった。
Hさん/水洗ボタン、ペーパーホルダー、呼び出しボタンのJIS配置の普及度合いはどの程度か。
髙橋/水洗ボタンのJIS規格の普及度合いはちょっと私もわからない。車椅子トイレだけでいいと思っていたり、そもそもこの規格を知らない設計者もたくさんいる。視覚障害者は広い車いすトイレを使うと思っている方も多い。
Nさん/比率の方はまだ非常に少ないと思う。今までは、横の壁に付けると電源コードを壁の中に埋め込むようにするため、事前の壁の加工のコストがすごくかかった。最近の押しボタンスイッチには自己発電できるものがあり、有線で接続しなくても壁につけられる。
髙橋/ブースメーカーとしては、早めに言っていただければコストは変わらないが、現場で線を通したいと言われると非常に大変な作業になってくる。
Hさん/先ほどのトイレブースの呼称、ストール「stall」という表現はあるが、これは「失速」という意味もあり、飛行機で使うと大変なことになる。
川内/ブース内のフックは視覚障害のある方にぶつかることがあるので、少なくとも顔のあたりに当たらないような高さが必要で、実はなかなか付ける場所がない。
髙橋/多機能トイレでドア付近にベビーチェアが設置されると、引き戸のハンドルを掴んでベビーチェアから抜け出そうとすることがある。ベビーチェアの周りには掴みやすいものを設置しないことも大事になってくる。保護者は用を足しながらもぱっと手を伸ばして赤ちゃんを抑えられなければならないので、本当に設置位置は難しいと私も思っている。