第9回セミナー「うんと知りたいトイレの話」報告

「うんと知りたいトイレの話」第9回(2022年1月13日)
「NEXCO中日本の混雑緩和の取り組み -高速道路SA・PAのトイレ-」
山本浩司((一社)日本トイレ協会運営委員、中日本高速道路株式会社)
高橋未樹子((一社)日本トイレ協会運営委員、コマニー株式会社)

(1)トイレの設置数の決め方
高橋:コマニー株式会社の高橋から、トイレの設置数の決め方を簡単にご紹介する。
衛生器具の設置数には、利用人数やトイレの利用形態などに応じて(公社)空気調和・衛生工学会が定めた「給排水衛生設備基準・同解説SHASE-S206-2009」が用いられることが多い。
トイレの利用形態というのは主に任意・集中に分けられる。任意はオフィスや商業施設のように自分がトイレに行きたいと思ったタイミングで利用するような場合。集中利用というのは、学校や劇場のように決められた休み時間にみんながドッと利用するような場合。
この算定基準は、サービスレベルが1~3の三段階で、レベル1は10秒以上待つ確率が5%以下、レベル2は60秒以上待つ確率が5%以下、最低限のレベル3は120秒以上待つことが5%以下になることを想定した基準になっている。
この基準は到着率と占有時間で考えられている。到着率は、その建物に何時間ぐらい滞在して、どのような頻度でトイレを利用するかで、時代が変わってもそんなに変わらないが、占有時間は変わってきている。
占有時間は、男子の小便器であれば1人平均で30秒ぐらい。男子ブースだと3分から5分ぐらい、女子は1分から1分半ぐらいを想定して作られている。劇場だとか学校など集中利用の場では休憩時間が限られていて急いで使うので、少し短めに設定されている。
今の算定基準は、昭和26年に東大の吉武先生がされた適正数に関する研究というのをベースに、空気調和・衛生工学会が昭和39年から40年にかけて、丸ビル、実際の小学校や高校、明治座などで調査をして作られた。なので、占有時間は昭和40年ぐらいのもので考えられている。私が大学、オフィス、国際空港、鉄道駅で現在の利用状況を測ったら、男子だったら平均で5分から長いところで7分弱。女子は1分から3分弱ぐらい。
昔に比べて今の占有時間が延びてきているので、トイレで並ぶことが増えてきていて、トイレが足りなくて混雑するという問題が起こっている。
占有時間が長くなっている要因としては、トイレが綺麗になったのでほっとする場として使われることや、便器が洋式化したり、温水洗浄機能がついておしりを洗ったりとかの時間で少し長くなっていることや、用足し以外の利用もあると思う。
30分以上トイレに入っている利用頻度が一番多かったのが鉄道駅。次に多かったのが大学とオフィス、国際空港という順。30分以上の利用が全て不正利用とは言わないが、私が鉄道駅のトイレに張り付いて調べると、1時間以上も入りっぱなしの例があり、中でご飯を食べた形跡や、駅員さんに話を聞くと、寝ているのではないかなというような声や、ホームレスの人の占有や、カップルで入っていたとかの話もあった。
大学では、昼休みの時間だけ飛び抜けて占有時間が長い。排泄ではなくて、休み時間を過ごす場所に困っている人がいるのではないかと考えている。1人でご飯を食べるのを見られるのが恥ずかしくてトイレで食べる人もいたりするのではないかなと思っている。
こういったことに関しては、学生さんが1人で休憩できる場所など、トイレ以外も含めて考えることが大事なのではないかなと思っている。
女子トイレについても30分以上ブースにこもっている人が一定数いて、その割合は男子トイレと同じく鉄道駅が一番多かった。オフィスはゼロだった。オフィスの場合は、顔見知り同士での利用のため、同僚にトイレが長い(=大便)と思われたくないという女性ならではの心理もあるのではと思う。
鉄道駅は、知らない人同士が利用するので、周りの目を気にせずちょっと長く利用してしまうのではないかなと考えている。
こうしたことから、今の算定基準は、そろそろ見直しが必要なのではないか。
ただし、不正利用があると単純に平均時間では考えられないため、不正利用を減らすということも、今後求められてくると思う。不正利用を減らすヒントとして、私がトイレの利用時間を測ったとき、トイレの入り口に「トイレ利用測定中」というポスターを貼ったら平均占有時間が短くなった。30分以上の利用に関しても、ポスターがあることで減った。

(2)中日本高速道路でのトイレの混雑緩和の取り組み
山本:NEXCO中日本の山本から中日本高速道路でのトイレの混雑緩和の取り組みについてご紹介したい。中日本高速道路では、トイレに関するいろいろな取り組みを「美化ピカトイレのヒミツ」という冊子にしたり、ホームページで紹介している。
トイレの混雑緩和の取り組みということで、四つの大きなフレームを行っている。
①具体的なトイレ数の算定。
エリア別、施設用途別での算定から、1個1個のトイレについて算出を行った。
②行動心理を生かした空間デザイン設計。
最適便器数を算定しても、使ってもらえていないトイレがあり、そこにうまく誘導する研究。
③独自シミュレータートイレ空間システムを活用した空間設計デザイン
設計段階でシミュレータを回して、この平面が妥当かどうかを確認している。
④ITトイレ
どこにどのようなトイレがあり、利用状況はどうかをトイレの入り口で紹介して、それを誘導サインにしてお客様に目的のトイレに行っていただいている。

①最適トイレ数の算定
弊社ではお客様が2分以上待つ確率を0.1%で設定している。
2分以上待たせないというのは利用実態調査の結果から得られた。待ち時間の発生確率の設定については、女性トイレが並んでしまうと非常に評判が悪くなるので、2分以上待つ確率を大幅に下げて、かなり細分化した分析を行っている。
トイレ数の算出では、待ち行列の理論を使って分析している。乗用車の場合は利用者はランダムに到着するが、乗車人数が少ないので、多く台数が来たとしても到着人数としては大きくならない。バスの場合は、到着確率は非常に少ないが、到着したときに多くのお客様が乗っていて、ほぼ間違いなくトイレを利用する。2台、3台とまとめてくると、近い時間帯に100人以上のお客様が来る。そういった場合でも2分以上待たせないような管理をする。
私達は、この到着確率をポワソン過程モデルを使って再現している。これは、高速道路の料金所ゲート数、高層ビルのエレベーター数、駅の改札数、銀行の窓口数等でも使われている。
お客様の到着確率と利用時間のデータを得るために扉にマグネットスイッチを設置している。港北PAのシミュレーション結果では7時から21時の間に2分以上待つ確率が発生している。特に9時から13時にはかなりのお客様に2分以上待つ結果が発生している。これに待つ確率が0.1%になるところまでシミュレーションを実施して、当時のトイレ数が33だったが、最適数としては67まで見直しをかけるということになっている。
これはトイレの数を増やすということが目的ではなく、最適便器数を計画していくという考え方。多くの女性のトイレでは、倍ぐらいの数が必要だという結果が出ている。
一方で、足柄サービスエリアの下りの女子トイレでは便器数を減らす方向になっている。これは、駐車場と建物配置計画の関係から、お客様がここに到着しにくかったため。足柄の上りでは、西棟では不足、東棟では余剰ということが見えたので、西棟に行くお客様を東側に誘導する計画をしている。お客様が到着しやすい誘導も考慮して計画すると、結果が変わってくる。最近では、女性トイレの混雑を解消してくれという声はほぼなくなっている。
男性トイレについては、大便器利用の利用時間が年々伸びていて、海老名サービスエリアでも、男子トイレの便器数を増やす方向になっている。
この計算をした当時は、NEXCO中日本では男性トイレには和式トイレが7割近くあった。今では、男子トイレでは9割、施設によっては10割が洋式化されている。和式トイレを洋式化すると、必要面積が減る。だいたい、2つの和便器に対して3つの洋式便器が置ける。さらに、扉を開けると便器がこちらに向かっているような配置にすると、非常に整備面積が小さくできる。こういう便器の配置計画についての見直しも行っている。

②行動心理を生かした空間デザイン設計
便器数はそれなりに用意したのに、なぜか混雑が発生してしまう。これに対しては、行動心理を生かした空間デザイン設計を行っている。
トイレの平面計画によっては、お客様が利用しないブースができてくる。先頭のお客様が、目で見てトイレが空いてないと認識してしまうと、そこで並んでしまって、見える範囲のブースから人が出てきたときに初めて入るということが繰り返されて、奥の方はなかなか行っていただけない。これにはサバンナ効果を活用している。森で迷った人は明るい草原の方に誘われて向かう。トイレの奥の方を明るくするとか、奥の方を暖色にすることによって人を誘導している。愛鷹パーキングエリアでは、手前よりも奥のブースの照明を明るくし、かつ、奥の方の壁の色は赤っぽくして途中は黄色、手前の方をブルーにしている。

③独自シミュレータートイレ空間システムを活用した空間設計デザイン
設計段階で、計画されたトイレがうまく利用されるかどうかを検証するために、シミュレーションを行っている。それで、奥の方がうまく使われないという結果になった場合は、案内表示板を追加したりとか、トイレの見え方を変えるといった工夫をやっている。
トイレの平面計画には、広場型、ブース型、通路型という3種類がある。
広場型は、入り口から入るとブースが真ん中の広場に面していて、ぐるりとブースが使われているか、いないかがわかる。新東名の清水パーキングはこの広場型。
ブース型は日本道路公団時代に多かった。例えば富士川サービスエリア。トイレ空間がいくつかのブロックに分かれていて、それぞれのブロックでは通路の両側にブースが並んでいる。このブース型は、奥のブースがうまく使われない場合があり、新たに設計するときには、あまり好まれなくなっている。
通路型というのは足柄サービスエリアでやっていて、長い通路に面してブースが並んでいて、通路の始まりと終わりの両方が入り口であり出口になっている。通路が湾曲していて、外側の円弧側は空き状態がよくわかるが、内側に関してはよくわからないということで、結果としてうまく使われない。通路型のある例では、無駄な待ち時間が86%程度存在していたので、誘導サインを追加したりしたら、73%まで減った。それに対して広場型の例では、無駄な待ち時間がほとんど存在していない。通路型で例えば10個ぐらい使われにくいブースがあるとしたら、結果的に10個少ないブースで運用しているということになる。
シミュレーションを行うことで、便器数の計算だけではなくて、混雑緩和には空間についてもいろいろ考えていかなければいけないというところが見えてくる。
同じ到着確率、同じ待ち時間で広場型と通路型を比較してみたが、広場型だと便器数を3割ぐらい減らしても同じぐらいの能力で運用できると確認できた。

④ITトイレ
ブースの扉に付けているマグネットスイッチを利用して、トイレの入り口にどこのトイレが空いているかを知らせる液晶パネルを付けているところもある。空間計画でお客様を誘導する以外に、こういうデバイスを使ってお客様を誘導するところもある。
また、奥に長いトイレでは空きブースがわかりにくくなるので、扉の上部に使用中がわかるランプを付けているところもある。このランプは利用時間が長い場合は点滅する。倒れたお客様を少しでも早く見つけて緊急搬送できるように、15分とか30分で設定している。
さらに、一部にはタブレットで操作する洗浄便座を置いているが、これは利用時間が長くなると、「お加減はいかがですか」という判断をするようになっている。ただ、長時間利用は他のお客様が少ない深夜帯に多く、今は大きな課題にはなっていない。

【ここまでで前半を終了し、質疑】(一部割愛)
Hoさん/①男性トイレと女性トイレで使用時間がだいぶ違う。この理由は?
②前回、第8回目の「うんと知りたいトイレの話」では、多機能トイレが一つだと結構待ち時間ができるけど、二つにしたら半分以下の時間で早く回るようになったというような話もあったが、その辺はこの待ち行列に対してどういうふうに関係するか。
高橋/①について。最近はオシッコをブースでという男性が増えてはいるが、男子のほとんどは大便。女子は小が多くてその何回かに1回が大便だということで、男子の方が長い。
山本/②について。一つのブースに2人以上が同時に来ると、多機能トイレの場合は最低でも6分ぐらいは使うので、次の人は待つことになる。トイレを二つにすると、どちらかは早く終わるので、待ち時間は短くなる。機能分散だと、トイレ種別ごとに1か所しかないので、待ち行列が増えてしまう。
Hinさん/(コメント)LIXILが2019年に実施した商業施設トイレの調査で、個室内で用足し以外にすることはという質問に対して20代から30代の男女各200人では、メール、SNS、インターネット、スマホゲーム、気分転換が、女性より男性の方がポイントが高かった。
高橋/女性では、洗面台ではなくてブース内で化粧直しをするという声も結構、多かった。
川内/SAは敷地が結構広いので、一番効率のいい広場型に全部してしまえばと思うが。
山本/実際に休憩施設で商業施設をレイアウトし、駐車場を確保したりすると、トイレを自由に設計できない。広場型は他の型より面積が必要で、休憩施設ごとに検討が必要。
Hirさん/「機能分散では問題解決にならない」ということを障害のある人たちにどうやって説明すると良いか。彼らは、機能分散派が大半。
川内/機能分散を主張する障害のある方は、あのトイレは車いす用なのだから車いす使用者以外に使わせるなと言っている。これはかなり昔のトイレの感覚。今や多機能トイレを必要としている人は非常に多く、車いす対応トイレは車いす使用者だけのトイレではない。
機能分散しても、実は彼らが期待しているような効果はない。例えば喫煙する人や居眠りする人は、機能分散しても。車いす対応トイレから出ていくとは考えにくい。
川内/NEXCO中日本の中では、トイレの設計標準みたいなものはあるのか。
山本/高速道路の研究所等があって、標準的な設計基準が作られている。それとは別に、中日本高速では地域別に細部についてのマニュアルがあり、地域ごとの違いに対応している。
川内/日本の場合は、個室があって、外に手洗い場があって、パウダーコーナーがあったりする。北欧なんかだと、一つの個室の中に手洗いとか、鏡もついていてその中で完結しているものも結構ある。私の感覚では、そちらの方が面積は少なくて済むと思っている。
Kさん/設計者。手洗い場をブースの中に付けたら、手を拭かずに振って水を切るので、床が汚れてしまう。メンテ上、やめてくれと言われた。
高橋/利用時間は延びてしまうのではないかなと思う。ブースの中に入っている時間が延びるので、数をちょっと増やさないと難しいかなと思う。
Sさん/感染症対策としてありだと思う。
川内/この問題はもっと時間をかけて考える必要がありそうに思う。