第1回 「日本のトイレ①―概論」講師:高橋志保彦氏
(一社)日本トイレ協会(以下、トイレ協会)にはさまざま分野の専門家が集まっており、その知識、情報、知見を広くお伝えする場として、このたび月に1回の連続セミナー「うんと知りたいトイレの話」を開催することとしました。
第1回目はトイレ協会名誉会長であり、高名な建築家、都市デザイナーであり、また神奈川大学名誉教授でもある高橋志保彦氏にご登場いただきました。日本と西洋のトイレについての幅広くかつ深い知識を縦横に展開したトイレ文化論、そして我が国のトイレ環境がいかに発達したかの背景や理由、またその要因などの多彩なお話は、やがてトイレ環境構築の基本である「安全」、「清潔」、「尊厳」、「博愛」へと展開していきました。
高橋氏は海外からしばしば、「日本のトイレはなぜこんなに発達しているのか」と聞かれるそうです。その要因として氏が挙げたのは①日本人の特性(国民性)・・・清潔に対する感覚、世間体を気にする恥ずかしがり屋が多いこと、思いやりやおもてなしの心、空気を読むといった他者との関係性への気配り、痔や高齢化といった身体的要因、現在における社会的階層性の無さといった諸点、そしてトイレにまで神を認め祀る精神性。
また②上下水等の都市のインフラの発達、③水洗による排水処理と公団住宅及びメーカーの技術開発も大きく寄与したとのことです。
江戸時代から排泄物を「肥料のもと」として都市と農村をつなぎ、江戸の循環型社会の骨格を支えてきたところが、単に都市を汚染するだけのものとして扱われていたヨーロッパとは大きく異なるところで、近年は「便所」から「トイレ」へ呼称が変化したことで、話題に出すことへの抵抗が低くなり、これも人々の関心を高める一助になったのかもしれません。
日本トイレ協会は1985年に発足しましたが、こうしたトイレの問題をオープンに考える組織が生まれたこと自体、日本社会のトイレに対する取り組みの柔軟さを表していると言えるでしょう。
そしてトイレについて、市民生活を中心にして、政策、デザイン、メンテナンス、生産/建設の各分野が連携して環境改善に取り組んできた成果が、今日のわが国のトイレを支えているとのことです。
高橋氏は、日本文化は「混種創生型」だといい、常に世界の良いところを導入し日本型に改良発展してきたと述べ、現代におけるその成果を温水洗浄便座に見ることができると言います。そして積み重ねられてきた分厚い知見や経験を活かして、日本には国際舞台で世界をリードする役割が求められていると結びました。