ノーマライゼーション研究委員会 対話型講演会「人の属性、五感や動作能力を考慮したトイレのニーズ等の調査」講演記録の概要

ノーマライゼーション研究委員会 対話型講演会「人の属性、五感や動作能力を考慮したトイレのニーズ等の調査」講演記録の概要

2024年9月28日(土)に、日本トイレ協会ノーマライゼーション研究委員会が、一般社団法人日本トイレ協会副会長の上野義雪さんを講師に迎え、対話型講演会「人の属性、五感や動作能力を考慮したトイレのニーズ等の調査」を開催しました。

その際の講演記録の概要を共有します。(記録:矢口絵理奈)

1.はじめに

一般社団法人 日本トイレ協会 ノーマライゼーション研究委員会(以下、「N研」という。)では、人が自立して暮らす上で、大きなウエイトを占めるトイレを軸にしながら、障がいのある人や高齢の人のみならず、様々な人を対象に、社会活動を営む上で不可欠なトイレのあり方、みんなが安心して使えるトイレはどうあるべきかについて考える活動を展開し、1997年よりセミナーの開催を行っておりましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大等を踏まえ、2020年より活動を休止させていただいておりました。しかしながら、昨今、政府による新型コロナウイルス感染症緊急事態解除が宣言されたことを受け、昨年度から活動を再開いたしました。昨年度はN研メンバーの星川安之さんによる「良かったこと調査」セミナーを行い、今年度もN研メンバーによるセミナーを開催いたしました。

2.N研セミナー内容

今回開催したN研セミナーの内容は下記のとおりです。

2-1.タイトル:人の属性,五感や動作能力を考慮したトイレのニーズ等の調査

2-2.開催形式:対面、及びオンライン開催

2-3.日  時:令和6年9月28日(土)15:00~17:00

2-4.講  師:一般社団法人 日本トイレ協会 副会長 上野義雪さん​

千葉工業大学工学部デザイン科学科の元教授で,専門は建築計画,インテリアデザイン,人間工学です.椅子やシートの機能性,筆記具の使いやすさ,バリアフリーデザインなど,日常生活における様々な製品の快適性と使いやすさを向上させる研究に取り組んでいます.​

1)研究分野​

・建築計画,人間工学,インテリアデザイン,製品デザイン,バリアフリーデザイン​

2)主な業績​

・椅子・シートの機能性と評価に関する研究:博士論文のテーマでもあり,日常生活における椅子やシートの重要性に着目し,快適性,使いやすさ,身体への影響などを多角的に研究.​

・バリアフリー教育実践のためのマニュアル作成に関する研究:バリアフリーデザインの理解を深め,実践につなげるための教育マニュアルを作成

2-5.内  容:

トイレのノーマライゼーション(標準化・正常化)を考える場合、対象とする利用者をどの様に考えるか整理する必要がある。しかし、先行研究では、対象とするトイレユーザーの属性が障害者属性に限定されがちであったと解釈できます。

このような背景を踏まえ、一般社団法人 日本トイレ協会 ノーマライゼーション研究委員会では、人の属性、五感や動作能力、トイレに求める多様なニーズ等の違いなどを考慮したうえで、

①対象とするトイレユーザーの属性(ひと系)の把握​

②属性に応じたトイレニーズ(環境系,もの系,空間系)の把握​

③これらを踏まえたトイレ(一般,共用,専用)とのマッチング​

について、調査等を進めており、今回は、その全体像を語っていただくとともに、この件に関してお話をしていただきました。

1)ひとの属性の捉え方

まず、トイレは住宅用と非住宅用(公的)に分けて捉える必要があり、履物の有無によって洋式便器に座った時に数cmの差が出てくるそうです。

さらに非住宅用トイレには男子トイレ、女子トイレ、子供用トイレ、多機能トイレがあり、非住宅用トイレでは使用者を設定する必要があります。そのため、使用者の体位(体格など)、動作能力(可動域・発揮力)等

を把握した上で、設計を進めなければならないと教えていただきました。

これまでは「一般トイレ+多機能トイレ」という区分であったが、これからは「一般トイレ+機能分散トイレ」という分け方に変わっていくと考えられます。トイレブースの種類が増え、選択肢が増えた様に思えるかもしれません。しかし、入る前に使用したいトイレを迷うことなく選択できるように考慮しなければならず、情報伝達のガイドが必要になります。

2)ひとの属性を考えるには

障害名・補助具名・疾病名ではなく、何ができ・何ができないか、が重要なファクターになります。そのためには、ひとの能力の把握をしなければならず、身体状況や機能・諸能力(五感、障害者障害程度等級、ADL)を知ることが必要になります。つまり、「ひと(属)」をどのように整理・分類するかが、トイレユーザーの分類につながるそうです。

つまり、ひとの属性を考えるには、建築・室内・人間工学の視点では体位 ・発揮力・動作特性(できるか否か・五感特性、ユニバーサルデザインの視点、ユーザー工学(黒須正明 user engineering)、利用品質 (平沢尚毅 Usability)、人間中心設計(User-Centered Design) 、共用品(公益社団法人 共用品推進機構)、身体障害者障害程度等級表、パラリンピックのクラス分け、ADLを参考にする必要があると教えていただきました。

3)物づくり・物づかいの人体寸法

まず、人体寸法の資料を作ることからはじめると、人体寸法には静的寸法・動的寸法が必要となります。そして人が動く「行為」は設計のひとつの要素として考える必要があります。そして実測寸法だけでなく、人が動いた際のゆとりも考慮した寸法も加味して空間の大きさを考える必要があると教えていただきました。

また、便器にはJISの規格があるものの、便座は製品によって厚みが異なるため、実際に座って使用する際に大きく影響するため大便器の高さを高さは便器と便座の高さを合わせて考えなければならないと教えていただきました。

4)五感での情報入手の容易性を考慮

人間の感覚受容器官(五感)は、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚のほかに直感・勘があります。そして、五感による知覚(情報判断)の割合情報量の約8割は視覚に依存しています。そのため、五感を活用できない人・過敏である人への配慮をする必要があり、視覚情報をいかに補填するか、その対応に重きをおくことが重要だそうです。五感は日常生活や危険の回避など、多くの場面で重要な役割を果たすため、空間設計、製品設計に十分な理解が必要です。

つまり、使用者が迷いを生じない「もの・空間」づくりを目指し、操作系については、ポピュレーションステレオタイプ(多くの人に共通する傾向や癖)の考慮をし、トイレ設計には配置などに共通性確保をしなければならないと教えていただきました。

5)トイレユーザーの対象を想定するための一覧表の作成について

一人でも多くの背景や立ち位置を確認するための一覧表は、トイレユーザーを想定するために人間工学、医学、リハビリ、スポーツ学などの立場から項目を整理し作成を行ったそうです。基本的な考え方として、設計側、供給側などの立場におられる人に参考となるトイレユーザーの一覧表となるもので、トイレユーザー、設計者、設置者、管理者側など、トイレに関わる方たちを考慮すると、トイレ空間の性能やトイレユーザーの想定の参考になる「物差し」として考えているそうです。

6)トイレは用が足せればよいか

機能分散トイレに向けて目指すべきことは容易性の確保です。誰もが迷いなく容易にトイレにたどり着ける、トイレ内の設備機器の有無が把握でき、トイレ内の設備機器の配置が理解し、安心して 、気持ちよく、 気兼ねなく、確実に操作・使用できる、使用後には使用前の状況に戻しやすい工夫があり、緊急時に適切な対応について伝えられるかが大切になります。