第31回「うんと知りたいトイレの話」(2024年1月18日)「省エネルギーを考慮したトイレの換気計画」

セミナー画像「自然換気と機械換気」

第31回「うんと知りたいトイレの話」(2024年1月18日)

「省エネルギーを考慮したトイレの換気計画」

  • 講師

(1)「省エネルギーを考慮したトイレの換気計画」鳥海吉弘氏(東京電機大学理工学部建築・都市環境学系教授)

(2)「能登半島地震緊急報告」高橋未樹子氏((一社)日本トイレ協会理事,コマニー(株)研究開発本部研究開発課)※別途報告予定

(1)省エネルギーを考慮したトイレの換気計画:鳥海吉弘

(鳥海)

今日は「省エネルギーを考慮したトイレの換気計画」という題目で喋らせていただきます.

はじめに

トイレは臭気や水蒸気が発生しやすいため,空気を入れ替え,換気ですけれども,それが必要になります.

トイレ空間では1時間に5回から15回程度の換気が推奨されています.

この換気回数は1時間に空気が何回入れ変わるかということですので,トイレの場合は1時間に空気が5回から15回入れ替わるということになります.

しかし,最近の商業施設のように冷暖房設備が設置されたトイレでは,機械換気は,冷暖房負荷の増加にもつながり省エネルギーを実現することが難しくなります.

つまり,温熱環境と省エネルギーの両立が難しいということになります.

実際消費電力が大きいのは,送風機ではなく,冷暖房設備の方になります.

今回のセミナーでは電気代やCO2排出量の削減を目的に換気量を低減するための工夫について紹介させていただきます.

今日発表するコンテンツですけども,大きく分けて9個になります.

1番目換気とは.

2番目,必要換気量とは.

3番目,トイレの換気量はなぜ多いのか.

4番目,自然換気と機械換気5番目,機械換気の分類.

6番目,トイレの換気方式,全般換気と局所換気.

7番目,換気の評価方法.

8番目,換気効率を高めるためには.

それから9番目は実例の紹介になります.

換気の目的

換気の目的ですが,人や機器など様々な物から発生する汚染物質,不要な熱,水蒸気,臭気などを室内空気とともに排出し,汚れた室内空気と,清浄な空気を交換することになります.また,換気には汚染物質を希釈する効果もあります.

対象となる汚染物質は様々なものがありますが,トイレ空間では具体的には水蒸気や臭気といったものが対象になるかと思います.

勘違いしないでいただきたいのは,ただ単に空気を循環させることでは,換気には該当しません.基本的には外気と入れ替えるという解釈になります.

トイレの必要換気量

まず,必要換気量が何かということですけど,居室の必要換気量は汚染物質の室内濃度が許容値以の換気量は,換気回数で5回から15回と推奨されています.

幅が広いということですね.

一方,住宅の必要換気量,これは建築基準法でしっかり定められています.

換気回数で0.5回ですね.

トイレの換気量はなぜ多い?また,なぜ換気量の範囲が広い?

トイレは5回から15回ということになります.

トイレの換気量がなぜ多いのか,なぜ換気量の範囲が広いか.

一つは,清掃状況が違うということです.

例えば,1日に数回しか清掃に入らないところだとか,場合によると,数日間に1回とか,それから,汚れたらすぐに掃除する施設等々,非常に幅が広いということです.

もう一つは,床の仕上げ材料による違いですね.例えば,床の仕上げに長尺塩ビシートを使った場合,モップ等で清掃する乾式床への清掃となります.

一方,床の仕上げにタイルを使った場合,水をまいて,ブラシで擦って清掃する湿式床への清掃となり,この清掃方式は非常に臭気が発生しやすくなり,結果,換気量の範囲が広くなります.

したがいまして,トイレの運用状況に応じて適宜,換気量を調整することが望ましいといえます.

換気方式(自然換気)

換気方法は,自然換気と機械換気に大別されるということになります.

機械換気設備がついていなくて,窓を開けたりしただけですと,自然換気の状況になりますけど,結局,換気の駆動力というのは,圧力差になります.

圧力差というのは,室内と室外の圧力差です.

換気の駆動力の圧力,圧力差を起こす要因は風力と温度差があります.

注意しなければいけないのは,トイレとかですと,室内外の温度差が小さいので,その場合は,あまり温度差換気が期待できないということになります.

換気方式(機械換気)

機械換気は,送風機,いわゆるファンを用いる強制換気であって,換気量は非常に安定していますけれども,設備費,設置費がかかります.

あとは運転費,ランニングコストが必要になるということになります.

家屋が独立していない公共トイレそれから,比較的規模が大きな公共トイレでは,機械換気が採用されることも多くなってきています.

機械換気の分類

今度は機械換気の分類です.

まず,機械換気は三つの換気方式に分類されます.

第1種換気方式,第2種換気方式,第3種換気方式になります.

第1種換気というのは,給排気を機械で行う方式になります.ファン等を制御することによって,室内の圧力をコントロールができることになります.この方式は,設備費と運転費が割高になる欠点があります.

次に,第2種換気です.

第2種換気というのは,機械を使って給気し,自然に排気する方式になります.基本的には,外部に対して,室圧が正圧になります.この方式は,ボイラー室とか,そういった部屋で,新鮮な外気が必要な部屋で使われたりします.

それから最後に,第3種換気ですが,自然に給気し,機械を使って排気する方式になります.外部に対して,室圧は負圧になるため,発生した臭気や水蒸気を他空間に流出しないようにしなければならないトイレとか浴室は,この方式を採用されることが多いです.

トイレの機械換気設備全般換気と局所換気

全般換気というのは,空間全体の空気を入れ替える換気するということです.

局所換気は,例えば住宅のレンジフード等,局所的に換気するということになります.

先ほどの繰り返しになりますが,トイレは室内を負圧に保ち,臭気や水蒸気が他空間に,流出しないようにしなければならないため,一般には第3種換気です.ただ,公共トイレでは,換気量確保の目的で,第1種換気方式が採用される場合もあります.この場合,しっかり給排気は取るのですけれど,室圧を若干負圧にしてあげるのです.

住宅の居室,事務所の執務室,学校の教室など,この場合は汚染源が人になります.

人間は,動きますので,位置の特定が困難になります.

そういう場合は,室全体に供給空気が行き渡るように全般換気が採用されることが多いということです.

一方住宅のレンジフードのように,コンロ周辺から局所的に熱や水蒸気が排出される場合は効率よく排気するために,局所換気方式が採用されています.

局所換気設備の利用

局所換気設備の利用ということで,最近はトイレでも,換気効率を高めているものが見られます.例えば,男性の小便器ですけれども,汚垂石(おだれいし)というのがありまして,尿をこぼすとそれが臭気になるということで,それをすぐに捕集するという意味で垂石の近くに排気口が付いています.また,小便意自体に排気口が付いているものもあります.局所換気により換気効率を高めるというものです.

換気効率の高い環境方法

以上をまとめると,換気効率の高い環境方法には,大別すると,換気方式,気流制御,局所換気があります.

換気方式,例えば置換換気は温度差による空気の浮力を利用して,気流を制御し,天井面の排気口から排出します.簡単に言うと,清浄で温度の低い空気を対象空間に供給し,温度が高くなると密度が小さくなって上昇しますので,排気するという方法になります.

気流制御は,吹出し口や吸込み口の配置によって気流を制御し,換気効率を高めます。

局所換気は,前述のとおり,すぐ取って捨てる方法になります.

質疑

(UMさん)二つほど質問があります.

一つ目が,最近,我が社のトイレの一部は空調を整備していることもあり,換気回数を5回で設計しているところがありますが,トイレ清掃を綺麗していることもあって,今後,清掃やそのさっき局所換気をする空調効率の数値を上げれば,さらに換気回数を低減できるのではと考えています.先生の見解をお聞きしたいっていうのが一つ目です.

二つ目が,最近,世の中的にも,ZEB(Net Zero Energy Building)の実現が重要とされていますが,ZEBを実現する手法として,空調設備のダウンサイジングが考えられますが,これには,換気回数を低減が有効と思われます.空調設備のダウンサイジングすることが,消費エネルギーを減らすことにインパクトがあるか教えていただけますか.

(鳥海)難しい質問ばっかりですね.

特に換気回数で5回というのには,こだわっていません.実際に2.4回/hで運用しているトイレもあります。

そのため,,本当に効率を上げれば,極端に言えば1回換気というのもできるかもと思っています.

どこまで下げていいのかというのは,清掃状況や換気設計等条件によると思います.

それから2番目の質問はこれ難しい質問ですけれど,ZEBということを考えるには,換気量を減らすということは非常に重要なことです.

しかし,新型コロナ対策として,換気量は減る方法じゃなくて,増えてしまうじゃないかと考えられています.これを回避するため,フィルターや空気清浄機なども利用して換気効率を高める研究が行われています.

(UMさん)ありがとうございます大変よくわかりました.

先ほど鳥海先生が言われた,新型コロナ対策を考えると,換気回数が増えるといった話がありましたが,コロナ対策となると,トイレの周りも局所換気ではなく,全般換気が必要となるのでしょうか.

(鳥海)新型コロナは,はじめの頃,空気感染はないと言われていました.最近は,空気感染の可能性もあると言われています.厳密には空気感染というか,感染性粒子の輸送距離が限定されるエアロゾル感染です.トイレで不特定多数の人間がいて,感染を避けようとすると,やっぱり難しいと思います.すごい換気量になっちゃう.

そのため,新型コロナ対策は,マスクするのがとても効果的です.

(HOさん)換気というと,私がすぐに思い出すのは飛行機です.

飛行機の場合は,上空の機内では0.8気圧ぐらいですかね.この場合,伺いたいのは,飛行機の中にもトイレのブースがあるのですが,なんらかの配慮がなされているのか.

それから,先ほど省エネの話がありましたが,飛行機で例えば,飛ぶ場合は,どのぐらい燃料というか,エネルギーを使っているのかなと.

また,換気といっても,給気する空気が綺麗じゃないと,意味がないと思います.排気したガスが外に充満したとして,それを給気するのもいかがなものかなと,その辺はどのように配慮したらいいのかなと思いました.

(鳥海)質問が難しすぎて,最初の飛行機の話は,国際会議とかで,よくこういったセッションがあって,例えば飛行機の機内は,換気回数が多いため,あまり確か問題がないということで,機内自体は,意外と大丈夫という理解だったと思います.

それから,飛行機のトイレの換気方式,詳しくないのですが,臭気が客室に出てこないように,客室よりは圧力が低くなっているはずです.

(HO)トイレは通路の気圧と同じだと思いますけどね.トイレブースにたいしたドアはついていませんから.

(鳥海)ちょっと2番も難しくてわからないです空調も逆にちょっと調べたらわかると思うのですが私はちょっとわかりません.

(鳥海)3番はよく議論されるのですが,住宅も先ほどの同時給排ってありましたが,例えば,同時給排型のファンというのは,給気と排気の入口がすごく近くにあるのですけども.

コンピュータシミュレーションと実測で検証がなされていますけども,何センチか忘れましたが,20センチか何センチか離れているとほとんど影響ないぐらいのレベルらしいので,あと,飛行機レベルでもあまり問題にならないのではないかと思いますけども.短絡的な流れがあったときには別として,意外と給排気口の位置は近くても大丈夫みたいな見解だと思います.

(SIさん)私がいろんな公衆トイレを見ているのですが,煙突効果を使って消臭対策を行っているトイレがありました.建物が細長くて,上の方に自然換気の窓があって,空気の臭いが出ていくと,伺いました.

私,トイレのニオイは重いから下部から排気するのが正しい.上部から排気するのは間違えていると教わってきていたので,すごく理解に苦しんでいます.

(鳥海)温度差換気の換気量は開口の高さのルート2倍に比例しますので,給気口と排気口の高低差が大きくした煙突効果は有効になります.

それから,臭気が重いというのはわかりません.周辺の空気と臭気は同じ比重だと思います.ただ,人体周辺の熱上昇流により臭気が上昇し人間の鼻を通過するときに,臭いと感じます.

対策としては,局所排気の概念を使うとか,いろいろありますけど,よく見られるトイレは,屋根頂部のところに,換気の取り入れ口をつけて,積極的に風力換気を使うとか,自然換気というのも着目されていますけども,換気量が安定しませんので,そこがネックと思います.

また,自然換気に利用する給排気口は常時開いているべきだと思います.