日本トイレ協会は、1984年に「トイレットピアの会」という小さな会から始まりました。当時はまだ水洗化率が60%くらいで、駅のトイレも公衆トイレもとても快適とは言いがたい状況でした。そんなトイレに光をあてて、トイレをまちづくりの視点から考えようという趣旨で始まったのがトイレットピアの会です。東京・新橋にあった「サロン集」-今でいえばサラリーマンが集うリアルSNSのような場所で、トイレを話のネタにしながら酒を飲むという一風変わった会でした。私はその「世話人」をしていました。ほとんどおおっぴらに議論されたことのないトイレのことを、いろいろな分野のトイレ好きが集まって語り合うという珍しい会は、メディアでとりあげられるとたちまち世に知られるところとなり、その勢いで翌85年に日本トイレ協会をつくりました。したがって2025年5月をもって、設立40周年になります。2016年には任意団体から一般社団法人となりました。
日本トイレ協会の設立趣旨は、「トイレ文化の創出と快適なトイレ環境の創造、トイレに関する社会的課題の改善に寄与すること」です。40年前には3K、4K(きたない、くらい、くさい、こわい)という言葉のルーツになった公共トイレが、「日本が誇る最高水準の文化、それはトイレだ!!」(「トイレ学大事典」のコピー)と言われるようになるとは予想もしていませんでした。
日本トイレ協会が火付け役となって、いろいろな地域、分野で「トイレ革命」が広がりました。建物や設備、器具の進化、世界に冠たる清掃・メンテナンスの充実、国や自治体の政策への影響など、すべての面において日本トイレ協会および会員の方々が大きな役割を果たしてきました。その結果、日本のトイレ文化は世界にも影響を及ぼしつつあります。いくつかの国ではトイレ協会のような組織が活動しています。
一方で、まだまだ課題はあります。トイレがよくなればなるほど、新しい課題がみつかる、と言った方がよいでしょうか。たとえば東京には観光資源にまでなるようなトイレが登場した一方で、世界ではまだ4億人以上が屋外で排泄しているという事実があります。ジェンダー平等という考え方に対して適切なトイレ環境への答えは、まだ模索中です。能登半島地震で再びクローズアップされた災害時のトイレ問題は、多様な障がい者や福祉的配慮が必要なトイレといった、誰一人取り残さないインクルーシブ防災という視点からの新しい問題が提起されてきています。このような問題を含め、SDGsの視点からはまだまだ多くの課題に直面しています。日本トイレ協会として取り組めることはきわめて限られていますが、精一杯、頑張りたいと思います。
日本トイレ協会は、行政やクライアントから何らかの義務を負って活動しているわけではありません。トイレが大好きな仲間が集うプラットホームです。トイレに関心のある、あるいはいろいろな分野でトイレに関わりのある人が集まってゆるやかに交流し、その活動の過程で課題を共有し、いろいろな議論や協働によって課題に対するアイデアやソリューションが生まれてきました。
最近はトイレに関して多様なテーマ、ミッションを持つ若い世代の会員が増えてきました。若い会員の皆さんには、プラットホームが蓄積してきた様々なリソースを活用して、新しい活動につなげていってほしいと思います。大学にトイレのサークルが生まれ、トイレをテーマとした学際的な研究も行われるようになっています。学生や研究者の発表の機会も設けていきたいと考えています
若い世代に限らず、トイレに関心がある多くの方々にはぜひ日本トイレ協会に参加し、プラットホームで交流し、仲間をつくり、活動していただきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
一般社団法人日本トイレ協会会長
山本耕平